第11話 母、来たる①
母が突然の上京を宣言してから、わずか三日後。みのりの部屋のチャイムがけたたましく鳴り響いた。
「みのり〜! 来たよ〜!」
玄関のドア越しに響く、懐かしくも元気すぎる母の声。みのりは覚悟を決めてドアを開けた。
「お、お母さん……早かったね」
「当たり前やろ〜! 可愛い娘の彼氏さんに会えるっち思ったら、飛行機もあっという間よ!」
母は両腕いっぱいにお土産袋を抱えて上機嫌だ。みのりは内心で頭を抱えながら部屋へ招き入れた。
そして、母の視線はすぐ一点に釘付けになった。
キッチンで不器用にエプロンを結ぼうとしている巨体――魔王・あっくん。
「な、なんや……背ぇ高っか〜!! みのり、あんた、こんなよか男ば連れてきとったとね!」
「え、えっと……その……」
「はじめまして。余はア……いや、アツシである。本日は遠路はるばる、よくぞお越しくださった」
「きゃ〜! なんね、丁寧で優しかぁ! 育ちのよか人やねぇ!」
母は両手をぱんと打って感激している。
みのりは(育ちは異世界ですとか言えない……)と目をそらした。
「アツシさん、座ってよかよ? あんた、お茶でも淹れたげんね」
「余が淹れよう。これはみのりの母上への礼儀というものだろう?」
「礼儀正しかぁ! みのり、あんたほんと幸せ者やねぇ!」
母のテンションは最初から最高潮。
みのりは焦りすぎて胃が痛くなる。
あっくんは湯のみを両手に持ち、慎重に運びながら母の前に置いた。
「どうぞ。熱いゆえ、気を付けてほしい」
「うわ〜……ありがとうねぇ。背高い人がこうやって丁寧にお茶入れてくれるとか、ドラマみたいやん!」
母はすっかり“未来の娘婿”を見る目になっていた。
「で、アツシさん。みのりとは、いつから付き合いよると?」
「えっ!?」
「余とみのりの関係は――」
「ちょ、ちょっと待って! お母さん! そういうんじゃなくて!」
みのりが慌てて割って入ると、母はにやりと笑った。
「またまた〜。隠さんでもよかよ? あんた電話で呼ばれとったやろ? 名前呼びしとったし。仲良しか〜」
「それは……えっと……!」
「トリートメントの追加が必要だと、みのりに伝えただけである」
「ほらね! 仲良しかぁ!」
まったく会話にならない。
みのりは頭を抱えたが、あっくんは真剣な表情でみのりの母に向き直った。
「みのりは、余にとって大切な存在である。……みのりの母上、安心してほしい」
「……!」
その真っ直ぐすぎる言葉に、母は目を丸くし、次の瞬間ぱぁっと笑顔を浮かべた。
「もう……なんてよか子なん……みのり、大事にされよるねぇ……!」
母はもう完全にあっくんを“娘の彼氏”として認定してしまったらしい。
「よし! 今日は三人でご飯食べに行こか! アツシさん、なんか食べたいもんある?」
「では……肉を大量に……」
「やっぱり男の子やねぇ〜!」
みのりはその背中を見ながら、深いため息をついた。
――完全に、手遅れだ。




