第110話 夜空に咲く火の華と魔王の独占欲――八月、浴衣に隠した胸の鼓動
八月。
夏休みも終盤。
魔王軍の一行は、街を挙げての花火大会へと繰り出した。
浴衣に着替えた女性陣の姿に、男性陣はそれぞれ言葉を失うことになる。
「みのり、あんまりきょろきょろしてると、はぐれるわよ」
絵莉が釘を刺す。
彼女のナイスバディを強調する鮮やかな大輪の向日葵柄の浴衣は、帯で締められた豊かな胸元が否応なしに強調され、歩くたびに艶やかな色気を放っていた。
隣のリュカは「絵莉さん、その……今日の浴衣、心臓に悪いです……」と、顔を真っ赤にして視線を泳がせている。
「ふふ、絵莉ちゃんこそはぐれないようにね」
真帆は、涼しげな水色に流水紋の浴衣を纏い、凛とした美しさを見せていた。
スレンダーな体躯にまとめ髪がよく映え、うなじの白さが夜の屋台の灯りに浮かび上がる。
ルカは「真帆さん……今日の貴女の容姿、僕の記録媒体に永久保存すべき美しさです……」と、緊張で震えていた。
そしてみのりは、胸元をフリルでカバーした可愛らしい金魚柄の浴衣姿で、あっくんの袖をギュッと掴んでいた。
「あっくん、見て! あっちにわたあめがあるよ!」
「あのような雲の切れ端のような菓子がそんなに珍しいか? それよりみのり、その装いは何だ。少し帯が緩いのではないか?」
あっくんは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、その視線はみのりの浴衣姿を隅々まで独占するように見つめていた。
普段より少し大人びた彼女の姿に、所有欲が昂ぶるのを隠せない。
「えっ、変かな?」
「変ではない……だが、他の男どもにその姿を晒すのが、少々不愉快なだけだ」
あっくんはみのりの肩を抱き寄せ、周囲を威圧するように睨みを利かせた。
その時。
「ドーン!」と腹に響く大きな音がして、夜空に巨大な光の華が咲いた。
「うわぁ……! 綺麗……!」
空を見上げる一行。
初めて間近で見る日本の花火に、異世界組は圧倒されていた。
「綺麗たぬーーー!!!」
人混みに紛れてあっくんの足元に隠れていたタヌロフが、興奮して飛び跳ねる。
ルカも「いや、これは魔力ではなく火薬による化学反応のはず。これほどまでの芸術に昇華させるとは……」と、見入っていた。
あっくんは、次々に夜空を彩る大輪の華を見つめながら、隣にいるみのりの手を強く握り締める。
「みのり。この華、異界の爆炎よりは幾分か風情がある……だが、余にとっては、その光に照らされたみのりの横顔の方が、よほど価値があるな」
「あっくん……!」
「来年も、その先も。この空の下で、余の隣にいろ……これは命令ではない。余の『願い』だ」
花火の爆音に紛れて、けれど確かな重みを持って、あっくんの言葉がみのりの心に響く。
海、そして花火。初めて尽くしの夏は、消えない余韻と「次」の約束を残して、静かに夜の深淵へと溶けていった。




