第109話 灼熱の砂浜と蒼海の驚き――魔王と乙女、初めての夏
七月。
うだるような暑さの中、魔王軍一行は念願の海へとやってきた。
眩しいほどの太陽、どこまでも広がる青い空、そして視界いっぱいに広がるコバルトブルーの海原。
「うわぁ……! 本当に海だ!」
みのりは思わず駆け出した。
彼女が選んだのは、控えめな胸元を可愛らしく見せるフリル付きのビキニ。
白地に小さな花柄が、彼女の可憐さを一層引き立てている。
「みのり、あんたはしゃぎすぎよ。危ないから」
絵莉が日よけの大きな帽子を片手で押さえながら、ため息交じりに注意する。
彼女のナイスバディを際立たせる、大胆なアニマル柄のビキニは、砂浜の視線を一身に集めていた。
「絵莉ちゃんの水着、とっても素敵ね。リュカくんが溶けちゃいそう」
真帆は、スレンダーな体型によく似合う、落ち着いたネイビーのワンピース水着姿で優雅に微笑んだ。
「この『海』とやら、あまりにも広大すぎます! そして、なぜか『塩の味』がします!」
ルカは、真帆の水着姿を直視できないのか、顔を赤くして海のデータを分析し始めた。
リュカも絵莉のグラマラスな姿に目を奪われ「え、絵莉さん、ま、眩しいです……!」と、今にも砂に埋まりそうなほど狼狽えている。
「騒々しいな……だが、悪くない」
あっくんは海の広大さに、不遜ながらもどこか感心したような表情を浮かべていた。
漆黒のシンプルな水着が、鍛え抜かれた肉体を際立たせる。
彼はみのりの元へ歩み寄ると、その華奢な肩を抱き寄せた。
「みのり。この水面、どこまで続いているのだ……異界には存在せぬ、広大な『水路』か」
「ううん、これは海だよ。世界中に繋がってるんだって」
みのりがそう説明すると、あっくんは砂浜にしゃがみ込み、波打ち際に打ち上げられた貝殻を拾い上げた。
「この白い破片、何だ? そして、この冷たい砂……異界の砂とは質が違うな」
「貝殻だよ。海の生き物のお家だったんだって。触ってみて、サラサラでしょ?」
みのりがそっと手を握ると、あっくんはその感触を確かめるように、珍しそうに指を動かした。
その時。
「み、みのりー! この『波』とやらが、タヌロフを襲ってくるたぬー!」
タヌロフが、初めて見る波に驚いて、小さな体に砂をつけながら必死で逃げ回っている。
あっくんはそんなタヌロフを見て、珍しく口元を緩めた。
「あの程度の波で騒ぐとは……だが、この海、案外楽しめるかもしれぬな」
あっくんがそう呟き、みのりの腰を抱き寄せる。
二人の足元を洗う白波が、太陽の光を反射してダイヤモンドのように砕け散っていた。
ふと視線を横に向ければ、そこにはかつて異界で戦火の中にいたとは思えないほど、平和で賑やかな光景が広がっていた。
「真帆さん、見てください! 砂浜の塩分濃度と水温の関係から、最適な熱伝導率を計算しました。この砂の中に足を埋めれば、デトックス効果が期待できます……!」
ルカは真帆の隣で、相変わらず軍師らしい「理論」を並べていた。
だが、その顔は真帆のスレンダーな水着姿を正視できず、ずっと斜め下を向いたままで真っ赤だ。
真帆はそんなルカの様子を「ふふ、ルカくん、理屈もいいけど今は一緒に波を楽しみましょう?」と優しく笑い、彼の腕を引いて海へと誘っていた。
少し離れた場所では、リュカが絵莉のパラソルを必死に立て直している。
「え、絵莉さん! 日焼け止め、塗り残しがないか僕が確認します! ……あ、いや、やっぱり無理です、眩しすぎて直視できません……っ!」
絵莉はナイスバディを揺らしながら、呆れたようにサングラスをずらした。
「あんたねぇ……そんなにビクビクしてたら、波にさらわれるわよ。ほら、リュカくん、シャキッとしなさい」
そう言いながらも、絵莉は差し出された麦茶をリュカの分まで用意してやり、優しさを見せていた。
そして、波打ち際ではタヌロフが、寄せては返す波と真剣勝負を繰り広げている。
「この波め! タヌロフの毛並みを台無しにするつもりたぬ!? 秘技・砂かけ攻撃たぬー!」
短い足で一生懸命砂を蹴り上げるタヌロフに、あっくんは呆れたような、けれど慈しむような鼻笑いを漏らした。
「……みのり。来年も、再来年も。この青き景色を、余の隣で見せてみよ」
あっくんは、はしゃぐ仲間たちの声を背景に、みのりの耳元でそう深く囁いた。
潮騒の音に混じって、みんなの笑い声が夏空へと溶けていく。
魔王軍の一行にとって、この初めての海は、絆をさらに深く刻み込む忘れられない一日となった。




