第103話 無自覚な誘惑者――リュカの「ふわふわ」が招いた危機?
ある日の午後、駅近のオープンカフェ。
リュカが絵莉を待っていると、そこに偶然、女子大生のグループが通りかかった。
「……わぁ、見て! あの人、すごく綺麗じゃない!?」
「ねえねえ、モデルさん? 写真撮ってもらってもいいですか?」
リュカは、絵莉と付き合ってからオーラが一段と柔らかくなり、その「儚げで美しい王子様」のような佇まいに磨きがかかっていた。
本人は困ったように微笑んでいるが、その微笑みがさらに女子たちの心を掴んでしまう。
「……えっと、写真はちょっと……僕は今、世界で一番大切な人を待っているところなので……」
そんなやり取りを、ちょうど待ち合わせ場所に到着した絵莉が、少し離れた場所から見ていた。
普段はリュカをリードするサバサバお姉さんの彼女だが、次々と女の子が寄ってくる光景に、胸の奥がざわりと波立つ。
「……何よ、あのデレデレした顔……あ、今、笑いかけたわね」
絵莉は無意識に、持っていたバッグの持ち手をぎゅっと握りしめた。
彼女は歩み寄り、女子たちの輪を割るようにしてリュカの隣に立つ。
「お待たせ、リュカくん……随分と楽しそうじゃない?」
「あ、絵莉さん! よかった、今、ちょうど断ろうとしていたところで……」
絵莉は女子たちに「ごめんね、この人もう『予約済み』だから」と、一見サバサバしているが、隠しきれない独占欲を含んだ鋭い笑みを向けて追い払った。
「……もう。あんた、無自覚なんだから。誰にでもそんな顔見せないでって言ってるでしょ」
「……絵莉さん? もしかして、怒っていますか……?」
リュカが不安そうに首を傾げると、絵莉はふいと目を逸らした。
「……怒ってないわよ。ただ、あんたが他の女にあんな顔見せるのが、ちょっと……気に入らないだけ」
その言葉に、リュカの瞳がぱあっと輝いた。
「絵莉さん……今、嫉妬してくれたんですか? 嬉しいです。僕、絵莉さんのそういうところも、全部大好きです……」
リュカくんは、人目も憚らず絵莉を抱き寄せ、耳元で甘い吐息を漏らした。
「……ちょっと、リュカくん! ここ、外よ!」
「いいんです。僕の心には、絵莉さんという光しか映っていませんから……」
普段はリードしている絵莉も、リュカの「ふわふわした情熱」には抗えない。
彼女は真っ赤になりながらも、幸せそうに微笑むリュカくんの背中に手を回した。
そんな二人を、例によって隠れて見ていたルカとタヌロフ、そして今回はみのりも加わって、微笑ましく(?)見守っていた。
「……リュカの、あの無自覚な攻めは計算外ですね。絵莉さんの防衛本能が完全にオーバーロードしています」
ルカが分析し、みのりが「絵莉、あんなに顔真っ赤にして……可愛いなぁ」とクスクス笑う。
「……やれやれたぬ。このアパートの住人は、みんな恋愛脳すぎるたぬ」
タヌロフが呆れ顔で呟くが、その尻尾は楽しげに揺れていた。




