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ラウンド2:拡散と独立 - 核クラブの形成

(スタジオの照明が青みがかった色に変わる。クロノスのホログラムに世界地図が浮かび上がり、核保有国が次々と赤く染まっていく様子が映し出される)


あすか:「第2ラウンド『拡散と独立——核クラブの形成』を始めます。1949年8月29日、ソ連が初の核実験に成功。アメリカの核独占は、わずか4年で終わりました」


トルーマン:「(苦々しく)スターリンめ...我々の機密を盗みやがった。クラウス・フックスやローゼンバーグ夫妻のような裏切り者がいなければ、もっと時間がかかったはずだ」


オッペンハイマー:「大統領、それは単純化しすぎです。ソ連にはクルチャトフのような優秀な物理学者がいました。彼らは独自に開発できた」


トルーマン:「だが、スパイが時間を短縮したのは事実だ」


ド・ゴール:「(皮肉な笑みを浮かべて)アメリカ人は常に他国の能力を過小評価する。フランスも同じように見られていた」


あすか:「クロノスのデータを見てください。1952年イギリス、1960年フランス、1964年中国。核クラブは急速に拡大しました。ド・ゴール将軍、フランスはなぜ独自の核開発に踏み切ったのですか?」


ド・ゴール:「(椅子に深く座り直し、威厳を持って)簡単な話だ。1956年、スエズ危機。英仏はエジプトのナセルに対して軍事行動を起こした。しかし、アメリカとソ連が共に我々に撤退を強要した」


トルーマン:「あれは無謀な植民地主義の最後のあがきだった」


ド・ゴール:「(鋭い視線をトルーマンに向けて)植民地主義?アメリカこそ、新しい形の帝国主義ではないか。核の傘という名の支配構造を作り上げた」


トルーマン:「我々は同盟国を守っている!」


ド・ゴール:「守る?いいや、従属させている。『守ってやる』という恩を売りながら、実際は自国の都合で行動する。スエズがその証明だ」


佐藤:「(慎重に)しかし将軍、核開発には膨大な費用がかかります。フランス国民の生活を犠牲にしてまで...」


ド・ゴール:「(立ち上がり、その長身を最大限に使って)独立に値段はつけられない!フランスの偉大さ、『グランドゥール』は、他国の慈悲に依存しては達成できない」


あすか:「実際、フランスの核開発計画『Force de Frappe(打撃力)』には、GDPの約1%が投じられました」


ド・ゴール:「安い投資だ。それでフランスは真の主権を取り戻した」


オッペンハイマー:「しかし将軍、核拡散は人類全体のリスクを高めます。より多くの指が核のボタンに...」


ド・ゴール:「博士、あなたがその扉を開いたのだ。今更閉じることはできない」


あすか:「佐藤総理、日本も1960年代に核開発を検討されましたね」


佐藤:「(長い沈黙の後、重い口を開く)はい...内密に研究はしました。『核兵器製造の可能性に関する研究』です」


オッペンハイマー:「(衝撃を受けて)被爆国の日本が?」


佐藤:「1964年10月16日、中国が核実験に成功しました。アジアのパワーバランスが大きく変わった。我が国も対応を迫られた」


あすか:「そして、その直後にライシャワー駐日大使に何と伝えましたか?」


佐藤:「(視線を落として)...日本も核武装を検討せざるを得ないと、示唆しました」


トルーマン:「賢明な判断だ。外交カードとして使った」


佐藤:「(顔を上げて)違います。本気で検討したんです。しかし...」


ド・ゴール:「しかし、アメリカの圧力に屈した」


佐藤:「いいえ、我々自身の選択でした。被爆国として、核兵器を持つことは...自己否定になる」


ド・ゴール:「美しい言葉だ。しかし、現実はどうだ?アメリカの核の傘の下にいる。それは独立国家と言えるのか?」


佐藤:「(感情を抑えながら)将軍、あなたには分からない。広島、長崎の記憶を持つ国民に、核武装を説明することの困難さが」


あすか:「しかし、1967年12月、あなたは国会で『非核三原則』を表明されました。『核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず』」


佐藤:「はい、それが我が国の選択でした」


ド・ゴール:「(冷笑)持ち込ませず?本当にそう信じているのか?」


佐藤:「(動揺して)どういう意味ですか?」


ド・ゴール:「アメリカの第七艦隊が日本に寄港する時、核兵器を降ろしてから来ると本気で思っているのか?」


(重い沈黙が流れる)


トルーマン:「(咳払いをして)それは...運用上の機密だ」


佐藤:「(苦渋の表情で)国民には...言えないことがあります」


オッペンハイマー:「また秘密か。核は常に秘密と嘘に包まれている」


あすか:「実際、1969年の沖縄返還交渉で、佐藤総理は密約を結ばれました。有事の際の核持ち込みを認める内容でした」


佐藤:「(深いため息)あれは...苦渋の決断でした。沖縄を取り戻すためには...」


トルーマン:「現実的な判断だ。理想と現実のバランスを取った」


ド・ゴール:「いや、それは依存の深化だ。フランスなら、そんな屈辱的な取引はしない」


佐藤:「将軍、フランスと日本では状況が違います」


ド・ゴール:「違う?どちらも戦争で荒廃した。しかし、フランスは独立を選び、日本は従属を選んだ」


あすか:「では、NATO の核共有について議論しましょう。西ドイツ、イタリア、オランダなどは、アメリカの核兵器を自国に配備しています」


ド・ゴール:「(軽蔑的に)それこそが従属の象徴だ。核兵器はあるが、使用の決定権はワシントンにある。主権の放棄だ」


トルーマン:「違う!それは集団防衛の一環だ。同盟国を守るための...」


ド・ゴール:「同盟?(立ち上がって)1966年、私はNATOの軍事機構から脱退を決めた。なぜか?フランスの運命をアメリカ大統領に委ねるわけにはいかないからだ」


トルーマン:「それは同盟の弱体化だ!ソ連に対して団結すべき時に...」


ド・ゴール:「団結?アメリカの指揮下に入ることが団結か?フランスは独自の核戦力で、独自の抑止力を持つ」


オッペンハイマー:「しかし、小規模な核戦力で本当に抑止力になるのですか?」


ド・ゴール:「『比例的抑止』という概念だ。フランスの核はモスクワやワシントンを壊滅させることはできない。しかし、受け入れがたい損害を与えることはできる。それで十分だ」


あすか:「興味深い戦略です。では、中国の核開発についてはどう見ますか?アジア初の核保有国となりました」


佐藤:「(緊張した面持ちで)あれは日本にとって悪夢でした。隣国が、しかも当時は敵対的な共産主義国が核を持った」


トルーマン:「毛沢東は予測不可能な男だった。朝鮮戦争でも、核戦争を恐れていないようだった」


オッペンハイマー:「中国の核開発には、興味深い点があります。彼らはソ連の援助を受けていましたが、1959年に関係が悪化し、独力で開発を続けた」


ド・ゴール:「(賞賛するように)それこそが独立の精神だ。他国に頼らず、自力で成し遂げた」


佐藤:「しかし、その結果、アジアの緊張は著しく高まりました」


あすか:「佐藤総理、中国の核実験の直後、あなたはジョンソン大統領と会談されました。その時の内容は?」


佐藤:「(慎重に言葉を選びながら)アメリカの核の傘の...確実性について確認しました。日本が核攻撃を受けた場合、アメリカは必ず報復すると」


トルーマン:「当然だ。同盟国への攻撃は、アメリカへの攻撃と同じだ」


ド・ゴール:「本当にそうか?ロサンゼルスを失うリスクを冒して、東京を守るか?私には疑問だ」


佐藤:「(不安げに)将軍、それは...」


ド・ゴール:「だから、フランスは独自の核を持った。自国の運命は自国で決める」


オッペンハイマー:「しかし、その論理では、すべての国が核を持つことになる」


ド・ゴール:「主権国家には、その権利がある」


オッペンハイマー:「(激しく)それは狂気だ!核戦争のリスクが exponentially に増加する」


あすか:「実際、1960年代には、スウェーデン、スイス、オーストラリアなども核開発を検討しました」


トルーマン:「だからこそ、NPT(核不拡散条約)が必要だった」


ド・ゴール:「NPT?あれは既存の核保有国の特権を固定化する不平等条約だ」


佐藤:「しかし、核拡散を防ぐためには必要でした」


ド・ゴール:「日本はNPTに署名して、永遠に核を持たないことを約束した。それで安全になったか?」


佐藤:「(沈黙)」


あすか:「佐藤総理、あなたは1970年にNPT に署名されました。しかし、国内では反対も強かった」


佐藤:「はい。『不平等条約』だという批判がありました。実際、そうかもしれません。しかし...」


オッペンハイマー:「しかし、他に選択肢があったでしょうか?」


佐藤:「被爆国として、核廃絶を訴える立場として、NPTに参加することは道義的責任でした」


ド・ゴール:「道義?国際政治に道義など存在しない。あるのは力と利益だけだ」


トルーマン:「将軍、あなたはシニカルすぎる」


ド・ゴール:「現実的なだけだ。アメリカも、必要なら同盟国を見捨てる。歴史がそれを証明している」


トルーマン:「(怒って)我々は常に同盟国を守ってきた!」


ド・ゴール:「ディエンビエンフーは?インドシナで、フランスが共産主義と戦っている時、アメリカは何をした?」


トルーマン:「あれは植民地戦争だった」


ド・ゴール:「都合のいい解釈だ。結局、アメリカも後にベトナムで同じ泥沼にはまった」


あすか:「話を核拡散に戻しましょう。インドは1974年に核実験を行いました。『平和的核爆発』と称しましたが」


オッペンハイマー:「平和的核爆発など存在しない。それは言葉の詐術だ」


佐藤:「インドの核は、パキスタンの核開発を誘発しました。地域的な核競争の始まりです」


ド・ゴール:「当然の成り行きだ。一国が核を持てば、敵対国も持とうとする」


トルーマン:「だからこそ、核不拡散が重要なんだ」


ド・ゴール:「しかし、誰がそれを強制できる?アメリカか?ソ連か?国連か?」


あすか:「実際、イスラエルも核を保有していると言われています」


(全員が意味深長な視線を交わす)


トルーマン:「それについては...コメントできない」


ド・ゴール:「(皮肉な笑みで)ほら、また秘密だ。ある国の核は容認し、ある国の核は非難する。これがアメリカの『正義』だ」


オッペンハイマー:「核の秘密主義は、私が最も後悔していることの一つです。民主主義と秘密主義は相容れない」


佐藤:「しかし、安全保障上、すべてを公開することはできません」


オッペンハイマー:「その論理で、市民は真実から遠ざけられる」


あすか:「核開発競争の技術的側面について、オッペンハイマー博士、水爆開発についてお聞かせください」


オッペンハイマー:「(深い苦悩を見せて)水爆...私は反対しました。原爆の1000倍の威力。都市どころか、文明そのものを破壊できる兵器です」


トルーマン:「しかし、ソ連が開発すれば、我々も開発せざるを得なかった」


オッペンハイマー:「その論理こそが、軍拡競争の本質です。エドワード・テラーは『水爆の父』と呼ばれることを誇りにしていた。私には理解できない」


ド・ゴール:「技術的優位性は、一時的なものに過ぎない。重要なのは、独立した抑止力を持つことだ」


佐藤:「しかし、その抑止力が、人類を何度も滅ぼせるほどになっています」


あすか:「実際、1960年代には、米ソ合わせて4万発以上の核弾頭が存在しました」


トルーマン:「MAD...相互確証破壊。狂気だが、それが平和を保った」


オッペンハイマー:「狂気の上に築かれた平和が、本当の平和でしょうか?」


ド・ゴール:「本当の平和など存在しない。あるのは力の均衡だけだ」


佐藤:「(静かに、しかし力強く)いいえ、将軍。広島の平和記念公園に立てば分かります。真の平和への願いは存在します」


ド・ゴール:「願いと現実は違う」


佐藤:「しかし、願いなくして、現実は変わりません」


あすか:「このラウンドを締めくくるにあたり、核拡散の功罪について、一言ずつお願いします」


オッペンハイマー:「核拡散は、人類の自滅への道を加速させています。我々は立ち止まって考えるべきです」


トルーマン:「管理された核抑止は機能してきた。しかし、無秩序な拡散は危険だ」


ド・ゴール:「核は国家の独立と尊厳の象徴となった。それを否定することはできない」


佐藤:「核拡散は悪夢です。しかし、その悪夢の中で、我々は生きる道を見つけなければならない」


あすか:「重い言葉の数々でした。核クラブは拡大し、今や9カ国が核を保有しています。第3ラウンドでは、その核による『恐怖の均衡』について議論していきます」


(照明が徐々に暗くなり、4人の影がテーブルに長く伸びる。核拡散という重いテーマの議論が、次なる局面へと移行していく)

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