ラウンド1:開発と使用 - 原罪の瞬間
(スタジオの照明が少し落とされ、中央のテーブルに集中する。クロノスのホログラムに1945年7月16日の日付が浮かび上がる)
あすか:「第1ラウンド『開発と使用——原罪の瞬間』を始めます。1945年7月16日、午前5時29分45秒。ニューメキシコ州アラモゴード砂漠。オッペンハイマー博士、あの瞬間を詳しく聞かせてください」
オッペンハイマー:「(目を閉じ、その瞬間を思い出すように)閃光でした。太陽よりも明るい光が砂漠を照らし...そして、キノコ雲が立ち上った。私の隣にいたケネス・ベインブリッジが言いました。『今、我々は皆、畜生どもになった』と」
(震える手でタバコを吸う仕草をして、また気まずそうに手を下ろす)
オッペンハイマー:「成功の瞬間、私の頭に浮かんだのは『バガヴァッド・ギーター』の一節でした。『我は死神なり、世界の破壊者なり』。科学者としての誇りと、人間としての恐怖が同時に襲ってきた」
トルーマン:「感傷的すぎる!博士、あなたは何を作っていたか分かっていたはずだ。兵器だ!人を殺すための兵器を作っていたんだ」
オッペンハイマー:「分かっていました。しかし、理論と現実は違う。あの破壊力を目の当たりにして...」
トルーマン:「だから何だ?ナチスが先に開発していたらどうなっていた?あなた方科学者は、自由世界を救ったんだ!」
ド・ゴール:「(冷ややかに)自由世界?アメリカ人は常に自分たちが世界の救世主だと思い込んでいる。実際は、新しい支配の道具を手に入れただけだ」
トルーマン:「将軍、あなたはナチスに占領された屈辱を忘れたのか?我々がいなければ、パリは今もヒトラーの支配下だ!」
ド・ゴール:「フランスは自力で解放された。連合軍の助けは受けたが、それは対等な同盟としてだ」
佐藤:「(静かに割って入る)皆さん、議論が逸れています。問題は、その兵器が実際に使われたことです。博士、あなたは広島、長崎への投下についてどう思われていたのですか?」
オッペンハイマー:「(長い沈黙の後)私は...目標選定委員会のメンバーでした。京都を目標から外すよう進言しました。文化的価値があまりにも高かったから。しかし、広島と長崎については...」
あすか:「博士、あなたは当初、デモンストレーションによる威嚇を提案されていましたね?」
オッペンハイマー:「はい。無人島や、東京湾の上空で爆発させて、その威力を見せつける。それで日本は降伏すると考えていました」
トルーマン:「甘い!実に甘い考えだ!日本軍部は最後の一人まで戦うつもりだった。現に、一発目の広島の後も降伏しなかった」
佐藤:「(感情を抑えながら)大統領、8月6日の朝、広島では子供たちが学校へ向かい、母親たちが朝食の準備をしていました。7万人が一瞬で...一瞬で蒸発したんです」
トルーマン:「その感情論で何人のアメリカ兵を殺すつもりだ?本土決戦になれば、日本人も100万人は死んだ。沖縄を見ろ!民間人が崖から飛び降りた。本土ならもっと酷いことになっていた」
オッペンハイマー:「しかし大統領、長崎はどうです?広島の3日後です。日本に降伏を検討する時間も与えなかった」
トルーマン:「(机を叩く)ソ連への警告も必要だった!スターリンは既に東欧を飲み込んでいた。我々の力を見せる必要があった」
ド・ゴール:「ほら、本音が出た。結局は力の誇示だ。日本人の命も、アメリカ兵の命も、すべては政治的計算の駒に過ぎなかった」
トルーマン:「綺麗事を言うな、将軍!あなたもレジスタンス時代、多くのフランス人を犠牲にした。戦争とはそういうものだ」
ド・ゴール:「私は自国民のために戦った。他国民を実験台にはしていない」
あすか:「実験台...その言葉が出ました。実際、広島と長崎では異なる型の原爆が使用されましたね。ウラン型とプルトニウム型」
オッペンハイマー:「(苦渋の表情で)その通りです。リトルボーイとファットマン。我々は...データが欲しかった。二つの異なる設計の効果を...」
佐藤:「(声を荒げる)データ?人体実験だったということですか?」
オッペンハイマー:「(顔を両手で覆う)否定はしません。科学者として、我々は知りたかった。しかし、人間として...私は今も悪夢を見ます」
トルーマン:「(オッペンハイマーを睨みつけて)また泣き言か!1945年の10月、あなたは私の執務室に来て、『大統領、私の手は血で汚れています』と言った。覚えているか?」
オッペンハイマー:「覚えています」
トルーマン:「私は何と答えたか覚えているか?『血は私の手にある。気にするな』と言った。そしてあなたが出て行った後、私はこう言った。『二度とあの泣き虫科学者を執務室に入れるな』と」
(スタジオに緊張が走る)
オッペンハイマー:「あなたは理解していなかった。我々が何を解き放ったのか」
トルーマン:「理解していたさ!戦争を終わらせる兵器を手に入れたということを!」
あすか:「しかし、その判断の結果として、核の時代が始まりました。ソ連は1949年に核実験に成功。核競争の幕開けです」
ド・ゴール:「当然の結果だ。アメリカが独占できると思ったのが甘い。力の不均衡は必ず是正される」
佐藤:「将軍、あなたはまるで核拡散を歓迎しているように聞こえます」
ド・ゴール:「歓迎はしない。しかし、現実として受け入れる。そして、フランスもその現実に適応しなければならなかった」
あすか:「クロノスのデータによると、マンハッタン計画には13万人が従事し、20億ドル——現在の価値で280億ドル相当が投じられました。博士、この巨大プロジェクトをどう統括されたのですか?」
オッペンハイマー:「(少し誇らしげに)ロスアラモスに世界中から最高の頭脳を集めました。エンリコ・フェルミ、ニールス・ボーア、リチャード・ファインマン...天才たちの楽園でした。議論は自由で、階級も関係なかった」
トルーマン:「そして、その天才たちは何を議論していた?より効率的に人を殺す方法をだ」
オッペンハイマー:「(激しく)違う!我々は物理学の限界に挑戦していた!核分裂の連鎖反応、臨界質量の計算、爆縮レンズの設計...それは純粋な科学だった」
ド・ゴール:「純粋な科学?(冷笑)それは自己欺瞞だ。あなた方は最初から兵器を作っていた」
オッペンハイマー:「最初はそうではなかった!アインシュタインの手紙も、ナチスが先に開発することへの恐怖からだった」
佐藤:「アインシュタイン博士も後に後悔されましたね。『私の人生最大の過ちだった』と」
あすか:「実際、ドイツの核開発はどの程度進んでいたのですか?」
オッペンハイマー:「戦後分かったことですが、彼らは我々よりはるかに遅れていました。ハイゼンベルクは意図的に開発を遅らせていたという説もあります」
トルーマン:「それは後知恵だ!当時は分からなかった。リスクを取るわけにはいかなかった」
ド・ゴール:「リスク?最大のリスクは、この兵器を実際に使ったことだ。パンドラの箱を開けた」
佐藤:「(静かに、しかし力強く)1945年8月6日、午前8時15分。エノラ・ゲイから投下された原爆は、43秒後に広島上空600メートルで炸裂しました。中心温度は100万度。爆心地の人々は影だけを残して蒸発しました」
(全員が沈黙する)
佐藤:「私の叔父も広島にいました。遺体すら見つからなかった。ただ、彼が立っていたであろう場所に、人の形をした影が石段に焼き付いていただけです」
オッペンハイマー:「(震え声で)私は...私は知っています。その写真を見ました。人間が影になる。物理学者として、そのメカニズムは説明できます。しかし、人間として...」
トルーマン:「(苛立ちながら)だから何だというんだ!戦争では人が死ぬ!東京大空襲でも10万人が死んだ。原爆だけが特別なのか?」
佐藤:「特別です!通常兵器とは質が違う。原爆は人間の尊厳そのものを否定する。放射線は何世代にもわたって苦しみを与え続ける」
ド・ゴール:「しかし、その特別さゆえに、戦争を抑止する力を持つ。皮肉なことだが」
あすか:「抑止力...それは後の議論として、今は開発と使用の瞬間に焦点を当てましょう。トルーマン大統領、最終決定を下す時、迷いはなかったのですか?」
トルーマン:「迷い?もちろんあった。私は農家の出だ。大学も出ていない。それが突然、人類史上最大の決断を迫られた」
(立ち上がり、窓の方を向く)
トルーマン:「しかし、私には責任があった。アメリカ兵の命を守る責任が。日本本土上陸作戦『ダウンフォール』では、100万人の死傷者が予想されていた」
オッペンハイマー:「しかし、日本はすでに降伏を検討していたという情報も...」
トルーマン:「(振り返って)無条件降伏を受け入れる気配はなかった!天皇制の維持を条件にしていた。それは受け入れられなかった」
佐藤:「結局、天皇制は維持されましたが」
トルーマン:「それは日本が完全に降伏した後の話だ」
ド・ゴール:「つまり、原爆を使わなくても同じ結果になった可能性があると」
トルーマン:「(怒りを込めて)可能性の話をしているのではない!私は確実性を選んだ。確実に戦争を終わらせる方法を」
あすか:「オッペンハイマー博士、科学者たちの間で、原爆使用に反対する動きはあったのですか?」
オッペンハイマー:「シカゴのグループ、フランク・レポートです。ジェームズ・フランクやレオ・シラードたちは、日本への使用に反対し、国際的な管理を提案していました」
トルーマン:「象牙の塔の理想論だ」
オッペンハイマー:「いいえ、彼らは核軍拡競争を予見していた。一度使えば、すべての国が欲しがると」
ド・ゴール:「その通りになった。賢明な科学者たちだ」
佐藤:「しかし、その警告は無視された」
あすか:「博士、あなた自身は最終的に使用に賛成されたのですか?」
オッペンハイマー:「(長い沈黙)...私は目標選定委員会にいました。反対はしなかった。それが私の罪です」
トルーマン:「罪?あなたは命令に従っただけだ」
オッペンハイマー:「『従っただけ』...ニュルンベルク裁判で、ナチスの被告たちも同じことを言いました」
(トルーマンが立ち上がり、拳を握る)
トルーマン:「我々をナチスと比較するのか!」
オッペンハイマー:「いいえ、しかし...科学者にも責任がある。我々は『どうやって』を問いましたが、『なぜ』『べきか』を十分に問わなかった」
ド・ゴール:「哲学的な議論だ。現実には、アメリカは世界で唯一、核兵器を実戦使用した国となった。その事実は永遠に残る」
佐藤:「そして日本は、世界で唯一の被爆国となった。この十字架も永遠に背負い続ける」
あすか:「クロノスが示すデータでは、広島の死者は14万人、長崎は7万人。その多くが民間人でした」
トルーマン:「戦争に民間人も軍人もない。総力戦だった」
佐藤:「子供たちに何の罪があったのですか?」
トルーマン:「真珠湾の犠牲者にも罪はなかった」
佐藤:「真珠湾は軍事施設への攻撃でした。広島、長崎は都市への無差別攻撃です」
ド・ゴール:「(冷静に)どちらも戦争犯罪という点では同じだ。勝者が裁かれないだけだ」
オッペンハイマー:「我々は皆、罪人です。程度の差はあれ」
あすか:「重い言葉です。このラウンドの締めくくりとして、皆さんに伺います。もし1945年に戻れたら、同じ選択をしますか?」
オッペンハイマー:「(即座に)開発は止められなかった。知識の追求は科学者の本能です。しかし、使用については...もっと強く反対すべきだった」
トルーマン:「同じ決断をする。ためらいなく。アメリカ兵の命を守るため、そして自由世界を守るため」
ド・ゴール:「私はその立場にいなかった。しかし、フランスが同じ立場なら...国益のために使っただろう」
佐藤:「日本は使うことはなかった。しかし、開発の誘惑は...正直、分かりません」
あすか:「誰も簡単には答えられない問いですね。原罪の瞬間——1945年の夏、人類は新しい時代に足を踏み入れました。それは希望の時代か、恐怖の時代か。第2ラウンドでは、その後の核拡散について議論していきます」
(照明が少し明るくなり、4人の表情に複雑な感情が浮かんでいるのが見える。第1ラウンドが終了する)




