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第二話:彦じいちゃん
「・・・すまんな、居酒屋やけど適当にくつろいでええ」
「・・・・ありがとございます」
東大寺から1.4キロ歩いた椿井町にひっそりと佇む居酒屋にじいちゃんは私を連れて行ってくれました。
幼い私は鹿せんべい売りの老人、彦じいちゃんに連れられるがまま中にはいれば席に腰を下ろしました。彦じいちゃんも元気のない私を見て何かを察したのでしょう。
「・・・・食べや」
焼きおにぎりや枝豆、そして暖かいスープにアイスクリームを店長さんに注文して私に食べさせてくれました。
「・・・・」
口に広がる味噌の風味と米の甘み、甘い枝豆に冷えた体を温めるスープ。
そして、口に入れた瞬間とろけるアイスクリームの味
きっと私はその味を忘れはしないでしょう。なによりも、
ひとりぼっちで孤独な私に声をかけ、不器用ながらにも伝わるじいちゃんの優しさに
「・・・・・・」
「・・泣いてええ。」
暖かく、そして皺くちゃな手が幼い私の頭を撫で
「・・・・〝子供は泣くんが仕事〟や」
怖い顔で笑顔を向けてくる彦じいちゃんの前で
私は声を出して泣いてしまいました。