第19話:呪われたおじちゃん~後編~
さて、時刻は夜の22時。居酒屋などのお店がにぎわい始め、飲食店などは店じまいを始める時間帯・・人もいない薄暗い夜の奈良公園、その奥にある春日大社の大鳥居。そこに幼い私と新左さんは身を潜めて、静かにとある人物が訪れるのを待ち構えておりました
「いいか、白饅頭。手筈は簡単だ・・・相手の手に藁人形があったらもうこっちのモンよ・・一網打尽にすんぞ」
「イタチのおじちゃん・・あくまでも僕たちがするのは説得ですよ?」
いまにも腰の刀を抜こうとする新左さんを諫めつつ、しずかに参道を眺めていたその時でした
ーー じゃり、
「!」
「あ!」
真っ暗闇の中から、懐中電灯の明かりが見えたのです。
だんだんと近づいてくるその明かりに目を凝らせば、それは頭に白い布で二本の懐中電灯をくくりつけ、真っ白な衣服を着た女性でした。
右手には金づちと大きな釘、そして左手には藁人形・・
「よっしゃ今だ!!行くぞ白饅頭!」
新左さんの言葉に私はうなずくとそのまま鳥居の影から飛び出して両手を広げました
「だ、だめですー!!!!」
「!?・・・な、なに?・・・しゃべる小鹿とイタチ?」
「マヒルお姉さん!ホストさんに怒る気持ちはわかります!でも・・だからってご神木を傷つけちゃだめですー!」
「おい!!だからソコ重要じゃねぇだろうが今は!!」
新左さんのするどいツッコミも聞かず、私は両手を広げて目の前に立つ女性・・マヒルさんを説得しようと必死に言葉をかけ続けました
「っ・・・小鹿ふぜいが私の何がわかるのよ!」
「わかんないです!でも・・このままじゃマヒルお姉さんがダメになっちゃいます!」
「うるさいってんのよ!!私っ・・私本気だったのに!!アイツが!!アイツがぜんぶ!!」
幼い私の説得に、激高したマヒルお姉さんが金づちを私に向かって振り下ろそうとしてきましたが、間一髪にところで新左さんが腰に携えた日本刀でその金づちを一刀両断しました
「あっ!」
「よっしゃ!!白饅頭今だ!!」
金づちを失い一瞬、あっけに取られているマヒルお姉さんを見て新左さんが大きな声を上げ、ソレを聞いて私はお巳さんから預かっていた〝ある物〟を取り出してマヒルお姉さんに向かって投げました
『よいですか、ムジカ・・・これは春日大社の神藤で作り上げた匂い袋です。呪いに蝕まれた者から呪いを吸い取り浄化する物・・・正しく使うのですよ?』
訳を聞いたお巳さんから渡された匂い袋がマヒルお姉さんに当たった瞬間、匂い袋から淡い紫色の光が溢れだしたかと思うと、マヒルお姉さんの身体からどす黒い瘴気が一気に噴き出し、そのまま匂い袋の中に吸い込まれてしまいました。
「・・・・っ」
するとその瞬間、先ほどまで鬼のような形相をしていたマヒルお姉さんは気を失いその場に倒れてしまいました。・・・どうやら匂い袋作戦は無事に成功したようです
「ふぅ・・・なんとかなったな。白饅頭よ」
「はい!ご神木が無事でよかったです!」
「やっぱソコなんだなお前さんはよ・・・・」
私の様子にあきれたように新左さんは笑って刀を鞘に納めると、大社の本殿からふわりと涼やかな風が吹き込み、いつのまにかその背後には安堵の表情を浮かべたお巳さんが立っておりました
「無事に解決したようですね・・・」
「お巳さん!・・匂い袋、ありがとうございました!・・・マヒルお姉さんは、大丈夫なんです?」
「えぇ、時期に目を覚ますでしょう・・・先ほど神域パワーでこの方のご友人にお告げを送りましたので・・あとはそのご友人の方にお任せしましょうね」
お巳さんはそう言うと微笑みを浮かべ、そっと優しく私の角に触れました。するとそこにまた新しい花びらが浮かび上がりました
「また一つ、神鹿として成長しましたね・・・これからもがんばるのですよ?ムジカ。」
・・その後、マヒルお姉さんは少しづつ元気を取り戻し、現在は純朴そうな男性とお付き合いを始めたのだとユキお姉さんから聞きました。
・・・そして、謎の腹痛にさいなまれていたおじちゃんも、なぜか復活しておりました
・・・さて、いったい何の因果なのやら。




