表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

第十五話:これぞ大和鹿の意地と度胸

さて、突然の火事騒ぎの中、幼い私は逃げる人込みをかき分けてなんとか東大寺の門をくぐり大仏殿の本堂近くまでたどり着きました


「おじちゃーーーん!!」


「ムッちゃん!?」


「白饅頭!?てめぇなんで此処に!?」


駆け付けた私の目の前には大仏様よりも巨大な燃え盛る炎の鬼を前に一歩も引かず立ち向かうおじちゃんと新左さんの姿でした


「ドアホ!!!来たらアカン言うたやろうが!!!急いで逃げるんや!!」


幼い私に怒気を飛ばすおじちゃんに炎鬼の巨大な腕が振り下ろされますが、ソレを新左さんの腰に差した刀の一閃が食い止めます



「新陰流・・・燕飛・猿廻ィ!!!!」


新左さんの右手に握られた日本刀、子天狗丸の一閃は鬼の腕を宙で真っ二つにするとその腕は火柱をあげたまま近くの池に大きな地響きを立てて落ちてゆきました。



炎鬼の巨大な方向があたりに木霊する中で幼い私はふと、私をかばうように立つおじちゃんや新左さんの腕、そして足などに小さな火傷の痕を見つけてしまいました


「おじちゃん・・火傷が・・・」


「火傷なんぞ〝あの頃〟に比べたらかすり傷や・・・しかし・・・・」


片腕を失いながらも這いずりながら奈良公園のほうへと進む炎鬼に、おじちゃんは忌々しくつぶやきます


「あの炎が厄介や・・・このままこのデカブツが四方八方炎をまき散らそうもんなら・・・」


「町が焼け野原になっちまう・・・」


おじちゃん、そして新左さんの言葉に幼い私は蹄をぎゅと握り覚悟を決めました


大好きな奈良の町が火の海になる・・


そうなってしまえば多くの悲しみであふれかえってしまう


そんな事、幼い私には絶対に許せませんでした



「・・・ぼくが」


あの日、独りぼっちだった私を助けてくれた彦じいちゃんのためにも


そして、はじめて私の味方になってくれたおじちゃんのためにも



「ぼくが、みんなをまもります!!」


怖くて逃げだしそうな足に力を込め、今眼前に迫る巨大な悪鬼に対して幼い私は高らかに叫びました



「ぼくだって!!!りっぱな神鹿になるんです!!!」


そう言って懐から取り出したのは下界に降りる前に、お守りとして持たせてくれた大切な物の一つ



「たけみかづちさま!おちからをかしてください!」


そう祈りをささげ、幼い私は空に向かって高らかに〝ほら貝〟を吹き鳴らしました



ーー 稲妻呼びのほら貝。


下界に修行に行く神鹿へ渡される神器のうちの一つで、春日山からこの地を守る春日三神の一人である雷神武御雷様の雷雲を呼ぶことができる物



「な、なんや!?」


「白饅頭がほら貝吹いたら・・急に雨雲が?・・・」


東大寺上空に現れた暗雲からは武御雷様の物である紫電がゴロゴロと音を立ててその形を大きくしてゆきます


その時でした



「あとは私に任せなさい」



突如紫電が空から降り注いだかと思うと黒雲から無数の白蛇の頭が現れ巨大な大雨を炎鬼に向け放ったのです


「こ、今度はなんや!?」


「・・・このおみず・・・もしかして・・・」



白蛇から放たれた滝のような大雨に炎鬼はうなり声をあげ、ついにはその場に倒れ伏してしまいました。


ごうごうと燃える炎は天より降り注ぐ雨により徐々にその勢いを弱めていき、その雨は奈良の町全体にまるで浄化の雨のように降り注いでゆきます


やがて、黒雲が完全に晴れた奈良の空には満天の星空とともに美しい虹がかかったのでございます


そして、倒れ伏した炎鬼はその身を塵に変えて闇へと消えへ行き



静まり帰ったその場には幼い私、おじちゃんと新左さん



そして巫女服を着た白髪の美しい女性が一人



「・・・あなたの勇敢な姿。しっかりと見ていましたよ。ムジカ」



「お巳さん!!」



私の世話役である、白蛇の精であるお巳さんが立っていたのです














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ