第十四話:トラブルは燈花会の夜に
・・さて、それからと言うもの、新左さんは私からおじちゃんが離れた隙を見ては私への闇討ちを何度か仕掛けてまいりました
ですがそのことごとくが幼い私に施された神鹿の籠によりすべて失敗に終わったのでございます。もちろん、幼い私は自分の気づかぬところでそんなことが行われていたなどわかるわけもなく・・・
そして月日は流れて蝉の鳴き声が奈良の町に木霊し、うだるような暑さが続く八月の頃
「なんや・・最近街中に灯籠やら提灯がぎょーさんぶら下がっとんな・・」
商店街を歩きながらあたりを見回すおじちゃんに幼いわたしは得意げに答えます
「今は燈花会の時期なんですよ、おじちゃん」
「とうかえ??」
なら燈花会。
1999年から毎年8月上旬に10日間、奈良市内や奈良公園一帯で開催される、ろうそくを使用した行事の事なのです。
そもそも燈花とは、灯心の先に形成される花の形をしたろうの塊のことで、仏教においてこれを縁起の良いものとすることに由来し、いつしか「燈花会」と名付けられました。八月の行事期間中は世界遺産に囲まれた奈良公園一面にろうそくを並べ、幻想的かつ神秘的な雰囲気が演出され、奈良における夏の風物詩として定着したものである・・と、まだ神域に居た頃にお巳さんがそう説明してくれたのですが・・幼い私には複雑な事はなにもわからず・・ただ、たくさんの人々が楽しそうにしているお祭り。と言う事しかわかりませんでした
「はぁ~・・・なんやけったいな祭りができてたんやなぁ」
「でも、たのしいおまつりなんですよ?ボクがあんないしますね!おじちゃん」
「せやなぁ・・まぁ、最近は新左のドアホの事で色々あったし・・たまにはぱーっと祭りを楽しもか」
「わぁーい!」
おじちゃんの言葉に幼い私はその小さな胸を喜びで溢れさせ、屋台でなにを食べようか。おじちゃんになにをせがもうかとワクワクが止まりませんでした
・・・その裏で、大事件のキッカケが起こっているとも知らず。
場所は変わり、東大寺、二月堂に続く坂の上。徐々に沈みゆく夕日と明かりが灯る街並みと暗くなるにつれ灯りが灯っていく燈花を見下ろしながら怪しげな一匹の猿が喉を震わせ笑った
「いいねぇ・・実に風流だ。・・人間ってのは作り物の美を生み出して自らの汚い部分をひた隠しにしようとする・・・千年たっても何にも変わらないねぇ。」
不気味に笑う猿の背から黒い渦が徐々に巨大な人の形を成していく。それは六本の腕と鬼のような角を生やした姿に変わったかと思うと
ーーーー オォオオオオオオオオ!!!
不気味な唸り声をあげその体に赤黒い炎を纏ったのである。
「チンケな祭囃子じゃあつまらない・・・・僕が〝悲鳴の花〟でも添えてやるとしよう。」
不気味な黒い毛の猿の言葉に炎を纏った悪鬼はその巨躯を倒せばゆっくりと四つん這いになり、炎をまき散らしながらゆっくりと蠢き始める
その視線の先にあるのは、今多くの人々が集まっているであろう
奈良公園であった
「か、火事や!!」
「やばいやばい!!なんか二月堂のあたりで原因不明の山火事やて!!」
「何アレ・・あの火動いとらん?・・こっちに向かってきてる!?」
場所は変わり奈良公園、燈花会の会場。突如起こった謎の山火事に一人が気づけば会場は見物客の悲鳴で騒然となった
「か、かじ!?おじちゃん。かじって・・・」
「・・・むっちゃん。これは〝ただの火事〟ちゃう。」
「え?」
「・・・どうせ見てるんやろ!!出てこんかい新左!!」
訳も分からずとまどう幼い私に草陰から刀を構えて飛び出してきた新左さんはすぐにおじちゃんに駆け寄りました
「主君・・この炎、まさか・・・・」
「話は後や!!行くぞ新左!!〝あの外道が居る〟んやったら好都合や!!もう一遍地獄に叩き落したる!!」
「承知!!」
そのまま巨大な火柱に向かって駆け出すおじちゃんと新左さんに幼い私も急いで後を追いかけようとしましたが
「ムッちゃんは来たらアカン!!!!鹿苑・・いや、みんなと非難しとき!!!」
「え!?で、でもおじちゃんが!!」
「絶対に来たらアカン!!・・急ぐぞ新左!!」
「ま、まってくださいおじちゃん!!おじちゃん!!!!」
幼い私の声も聞かずおじちゃんと新左さんはそのまま巨大な火柱のほうへと人込みの中走って行ってしまいました
「・・・・・っ」
ですが、私もまだ幼いとて神鹿。今何が起こっているのかはわかりません。ただ、大勢の人が怯え逃げ惑う原因があの謎の火柱であるならば
もう、心は決まっておりました
「ぼくも、おたすけします!!!」