第十三話:動き
さて、そんなことがあった翌日のことでございます。
「おじちゃん、きょうもはりきってますね・・」
奈良公園のベンチに腰掛けながらいつものように迷惑観光客に制裁を食らわせるおじちゃんを見ながら、幼い私はその様子や奈良公園の様子をスケッチブックに描き起こしておりました。
思えばこのスケッチブックも、一枚目は私の涙の痕だけでした。けれどひこ爺ちゃんから暖かさを貰い・・なによりおじちゃんに会ってからは少しづつですが美しい物で埋められていったのです
ジョギングをする老夫婦、お土産屋さんの前を掃除する店員さん。
東大寺に向かって手を合わせるおばあちゃん、楽しそうに通学する学生さん
そして、木の陰から私をガン見しているイタチの新左さん
『・・・・あの白饅頭・・主君をたぶらかそうなんざそうはさせねぇ・・』
あきからに見え見えのはすですがどうやら新左さんは隠れていると思っていたらしく、腰に携えた小天狗丸を構えていたのです・・・
『神鹿の子供なんざうさんくせぇ・・きっと主君をだまそうとする饅頭か餅の物の怪に決まっていやがる!!』
すぐさま小天狗丸を抜き放ち幼い私に新左さんは飛び掛かったのですが・・・
「あ、きれいなはっぱです!」
「!!?」
ベンチの下に見つけた綺麗な木の葉を拾おうと前かがみになった私の頭上を通り過ぎ、新左さんはそのまま目の前の池に頭からダイブしてしまったのです
「ごぶふあ!!?」
「??・・・イタチのおじちゃん?・・おいけでなにしてるんですか?・・あついからみずあび??」
『こっ・・・この白饅頭!!俺の剣筋を完全に読み切っていたのか!?・・・』
「イタチのおじちゃん??」
「いいや、ありえねぇ・・・まぐれに決まってる!!覚えていやがれ白饅頭!!」
ざばあ、と小脇に池の鯉を抱えたまま新左さんは捨て台詞を吐き捨てるとそのままどこかへ走り去っていってしまいました。幼かった私にはいったい何がおこったのかわからず、ただ首を傾げるしかできませんでした・・・
「なんや、どないしたん?ムッちゃん。」
「イタチのおじちゃんが・・おいけでおよいでました・・」
「新左が?・・・あンのドアホ・・ムッちゃんにケガさせなかったやろな!!」
「ぼくはげんきですよ?」
怒りを露わにするおじちゃんを静かに諫めて幼い私は小さく笑みを返したのでした
さて、その頃・・春日大社の神域では静かな話し合いが行われておりました
「・・・ムジカが〝妙な鹿〟と行動を?」
バチバチと稲光をまとう毛玉の声に大きな熊が憤りの声を上げます
「なんだと!?俺の愛弟子であるムジカに妙な鹿が!?不良やもしれん!!たたッ斬ってくれる!!」
「ええい!やかましいわこの怪力熊!!なんでもかんでも暴力で解決するんじゃない!!これだから単細胞は・・・」
「何をぉ!?このびりびり毛玉!!今ここでどちらが大社最強か決着を!!」
「お静かになさいませ!!〝タケミカヅチ〟様、〝フツヌシ〟様!!」
その様子を鈴を転がすような凛とした声が諫める
「・・・わたくしが、様子を見てまいります・・・。」