第十一話:剣豪来る
さて、四月も終わりに差し掛かり木々の葉が青々と茂り春日の山からさわやかな風が奈良の街に吹雪いてきた頃の事です
私はあいかわらずおじちゃんとと共に行動し、奈良公園の平和を守るためそして信仰心を集め立派な神鹿になるべく修行にあけくれておりました。
「今日も暇やのぉ・・・あらかた迷惑観光客ややかましい外国人共は蹴散らしたし・・」
私の隣で迷惑観光客から巻き上げた札束を一枚ずつ数えながらおじちゃんはそうぽつりとつぶやきました。そそそろゴールデンウイークも近いからか、賑やかな奈良公園はさらに活気にあふれておりました
「しゃあない。むっちゃんそろそろ昼飯たべよか」
「そうですねおじちゃん。ちょうどお昼時ですしそうしましょ」
私はリュックをしょい込みおじちゃんの後ろをぽてぽてとついて歩いておりましたが、ちょうどそれは博物館前を通りかかった時の事
「ひったくりや!!だれかそのバイクとめろ!!」
どうやら観光客のカバンを狙ったひったくり事件が起こったらしく、ふと視線をやればこちら側に向かってくるバイクと悪そうな二人組が見えました
「おじちゃん!ひったくりです!」
「はぁ?ほっとけムッちゃん。阿保な観光客が悪いんやから」
慌てる私をよそにおじちゃんは大きなあくびをしながらその様子を眺めておりましたがその時です。
人込みから小さな影がバイクの前に躍り出たかと思った次の瞬間でした。
「へ!?」
「んなぁ!?」
私やおじちゃん、そして周りのギャラリーもみんな目を丸くしておりました。
それもそのはずです。いきなりバイクが真っ二つになり乗っていた二人組の服が切り刻まれていたのですから
「な、なんや!?バイクが急に!?」
「な、なにが起こった!?」
「よ、よくわからんけどはよ警察!!」
訳も分からずパニックになっている中で、私は気絶した二人組からバックを手にして取られた観光客のお姉さんに鞄を投げ渡す小さな影を見ました
「おじちゃん・・・あれ・・・」
「あん?なんやバイクが急にまっぷた・・・・・・・・・」
そう言いかけるとおじちゃんはその小さな影を見て顔面蒼白になり黙ってしまいました。そう、まるで会いたくない人物にあったかのようなそんな表情をして、おじちゃんは固まってしまったのです
「む、ムッちゃんはよ飯食べいこ」
「どうしたんですおじちゃん、なんでそんなに慌ててるんです?」
「ええから!!とにかく早よ行くでㇺッちゃん!!見つかったらいろいろとめんど・・」
私の腕を引っ張りなんとかその場から離れようとするおじちゃんに首をかしげていると
「やれやれ・・・異人なんぞばんばん入れやがるからこんな面倒くせぇ事になるってのに・・今の役人どもは本当に働きやがらねぇ・・・どうしようもねぇ世の中になっちまったもンだァ・・・そうは思いやせんか?・・主君。」
「しゅくん??」
背後からかけられた声に振り向くとそこには一匹のイタチ。
しかしただのイタチではなく大きさはおじちゃんより少し小さく、三度笠に縞模様の合羽をはおってその口には葉っぱを咥えた昔の任侠のような姿でその腰には小さいながらも刀が差されていたのです。
そのイタチの言葉におじちゃんは眉間に皺を寄せ苦々しくつぶやきました
「・・・・なんでお前が此処に居んねん。新左エ門」
「主君の牙であると誓ったこの奴・・・たとえ地獄に落ちようとも、どこまでも主君にお仕えすると決めたしだいでごぜぇやすから・・」
なんと、そのイタチはおじちゃんのお知り合いだったのです