憂鬱な学校
涼風伊織は今年の春から高校生になり、一人暮らしを始めていた。
高校生で一人暮らしをする理由は、中学生の時に【男らしくない見た目】という理由で数々の嫌がらせを受けてきた為だった。
伊織はベッドから起き上がり部屋を移動して洗面所の鏡の前に立つ。
そこに映る伊織は身長が180近くあり華奢で、髪は普通より長く前髪で目元は隠されていて誰もが根暗という印象を受ける見た目をしていた。
しかし洗顔をするために前髪をあげると、そこには女子顔負けのパッチリとした二重、そして宝石のように輝いた青色の瞳が写っていた。
「あー、あー」
それに透き通った綺麗な声。
中学生時代にこの容姿と声で嫌がらせを受けてきた伊織は逃げるように高校は地元を離れた遠いところに受験し、親の援助を受けて今は学校から徒歩15分ほどにある1LDKのマンションに住んでいる。
(はぁ……憂鬱だ……)
伊織は中学時代のトラウマからうまく人と話せておらず、それにストレスで体調を崩しやすくなった伊織は入学式を体調不良で休んだ。
翌日学校に行くとすでにグループが出来上がっていて、現在6月になるが友達と呼べる人は二人しかいない。
しかもその二人にも事情は話していないし、前髪で隠れた目を見せた事も未だに無い。
そんな伊織は学校に行くのが憂鬱で仕方がなかった。しかし両親に費用を払ってもらっているので学校をサボるわけには行かない。
「行ってきます」
伊織は重い足取りで学校へ向かうのだった。
学校に着き教室に入って席に座りカバンの中身を取り出していると横から声を掛けられる。
「よっ!伊織!」
そう言って声をかけてきたのは隣の席の伊織の二人いる友達の内の一人、【東雲祐介】だった。
祐介はバスケ部に所属していて明るくて性格も良く、なんで友達でいてくれるのかわからないと伊織はいつも思っていた。
「あっ、おはよう祐介くん」
伊織は小さい声で挨拶を返した。
「そういえば聞いたか? あの【水無瀬玲奈】がまた告白を断ったらしいぜ! 今回はサッカー部2年のイケメンなエースだそうだ」
水無瀬玲奈、それは学校の高嶺の花的な存在だ。
容姿端麗で愛想が良く、文武両道でそのホワイトブロンドの髪と目は誰もが目を引くほどに綺麗だった。
入学早々一目惚れした男子達がこぞって告白したが結果は全滅で、現在も尚記録を伸ばし続けているらしい。
「そうなんだ……僕には縁がない話だね」
伊織はこんな自分が関わることはないと思っていた。
そう、あの出来事があるまでは。