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Chapter.4 ⇒中年の男と女スパイはエリア3を抜け、秘密基地に潜入する。

「ここって最高ね」


「なんて最悪な場所だ」


 二人は同時に声を発した。エリア3では空には飛行型メカトロヒポポタマスが目を光らせ、堀には潜水型メカトロヒポポタマスが息を潜め、路地には人型メカトロヒポポタマスが巡回していた。


「あんたもこれを着て」


 そう言ってネチャンはオジにアタッシュケースを差し出した。


「ここからは降りて徒歩で向かう。さすがにオートモビルでは目立ちすぎるわ」


 オジは何十ものメカトロヒポポタマスに囲まれることを想像し、震え上がった。ネチャンは自分用のケースを開けると中から最先端のボディスーツを取り出し素早く着込んでジッパーを上げた。頭には最先端のキャップ、目にはスコープ、耳には通信機を取り付ける。そしてオートモービルのハッチを開けるボタンを押すと、屋根が格納され、二人は外気にさらされた。「行くわよ」とネチャンが振り返ると、オジはアタッシュケースの口の開け方がわからず四苦八苦していた。そしてバチンとロックが開いたと同時にアタッシュケースを落とし、それは谷底に見えなくなった。


「すまない」


 オジは自分の不甲斐なさに泣きそうな顔をしてそう言った。


「いいわ。私が守る」


「だが、スマホは使えるようになった。俺も努力している」


「わかってる」


 恐怖に震えるオジを見て、ネチャンは心が奮い立つのを感じていた。ネチャンはボディスーツのダイヤルを捻ると、スーツの機構が作動し、彼女の秘孔を圧迫した。十段階のゲージランプの内、二つが光る。これは彼女の身体能力が二十パーセント向上したことを意味する。


「捕まって」


 そう言うと、ネチャンはオジを抱えて飛んだ。

 ネチャンのボディスーツとキャップは防刃性能に優れる柔軟な二層のカルボノイドファイバーで作られ、内部には耐衝撃性能に優れた超防温性ダイダラスゲルが満たされている。そして表層にはあらゆる攻撃に瞬間的な斥力を加える黒烏龍塗料が塗られていた。これによりたとえ大砲だろうとさしたる衝撃なく弾くことができる。


「なあ、カバロボットたちが飛んで来てないか?」


 ネチャンに抱きかかえられ落下するオジは空を見上げ不安の声を上げた。


「大丈夫」


 飛行型メカトロヒポポタマスが二人に向かって数機飛んできていた。しかし、直後に乗り捨てたはずのオートモビルが旋回し、メカトロヒポポタマスに向かって体当たりを繰り出した。


「オートパイロット機能と、敵を必ず轢き倒す自動アクセル機能があるのよ」


 ネチャンは猫のようにしなやかに地上に着地すると、「最先端なのよ」と言った。

 かくして最先端の装備に身を包んだ女スパイとTシャツにジーンズの中年男は、凶悪なメカトロヒポポタマスが跋扈するエリア3を駆け、ときに身を隠し、目的の秘密基地までたどり着いたのだった。


「なんてアナログな鍵なの」


 ネチャンは入口の前時代的なRSAシリンダー錠を見て舌打ちした。


「バカにされてる気分だわ」


「どういうことだ?」


「この鍵は、専用の物理キーを差し込み、そこから電子パスワードを送信することでシリンダーを回せるようになる仕組みなの。今の私達の技術から見れば、おもちゃ箱の鍵にしか使われない技術だわ」


「子供のおもちゃ箱に鍵が必要なのか?」


 ネチャンはオジの言葉を無視してモバイル3Dスキャナーで鍵穴をスキャンし、プリンターで物理キーを印刷、その間にパスワードを解析した。ものの五分と立たずに完成したキーを錠に差し込みそれを捻った。


「回らないな」


「おかしいわね」


 ネチャンがキーと錠を調べ、しばらくして「あっきれた!」と声を上げた。


 遠くに巡回する人型メカトロヒポポタマスの姿が現れた。


「物理キーの精度が足りないんだわ」


 人型メカトロヒポポタマスは二人の方向を見ると、目を赤く光らせた。


「どういうことだ?」


 人型メカトロヒポポタマスは音もなく二人に忍び寄ってきた。


「私のプリンターは一ミクロンの精度で加工できる最先端のものなんだけど、この錠は更に一桁高い精度を要求しているのよ。つまり、コンマイチミクロンの精度で作らないと回らないようになっているってわけ。こんなのどうしようもないわ。他の道を探すか、扉を破壊しましょう」


 人型メカトロヒポポタマスは間もなく二人を射程距離に捉える。


「機械いじりは俺の専門分野だ。お前はあいつをなんとかしてくれないか」


 オジが言うやいなや人型メカトロヒポポタマスが猛然と二人に襲いかかり、瞬時にネチャンが左腕のアームガンを撃ち敵を弾くと右手のアームブレードを伸ばし体勢を立て直した人型メカトロヒポポタマスと鍔迫り合った。


 オジは鍵穴とプリントされたキーを丹念に調べ、干渉している部位を特定し、調整していた。


 ネチャンが間合いを取るため離れると敵はすぐにレーザー銃を放ってくる。ネチャンはそれを弾き、撃ち返す。ネチャンは自身の放つ弾を目隠しに懐に切り込むが、防がれ、蹴り飛ばされる。人型メカトロヒポポタマスが宙を舞うネチャンに追撃しようと銃を構えたところで彼は片腕が動かないことに気づく。いつの間にか高周波エネルギーブレードを持つ左腕にワイヤーが巻き付いていた。


 ネチャンと人型メカトロヒポポタマスが持つ剣は、高周波エネルギーが流れるワイヤーでできている。人型メカトロヒポポタマスがもつそれはブレードとしてしか使えないが、ネチャンの持つ最先端のそれはワイヤーを鞭のようにしならせ使うことができた。


 ネチャンがワイヤーを巻き取りながら強く引くと、人型メカトロヒポポタマスの腕が飛んだ。人型メカトロヒポポタマスは体勢を崩しながらも素早くネチャンがいた方へ銃口を向けた。しかしネチャンの姿はそこにはない。そして、背後に生体反応を感じたときには既に彼の首は掻き切られていた。


「開いたぞ」


 ネチャンがアームブレードを仕舞うと、オジから声がかかった。


「やるじゃん」


 息を切らしたネチャンが振り返ると、オジはちょっと肩をすくめた。

 扉にはネチャンが飛ばしたメカトロヒポポタマスの腕と、それに握られた高周波エネルギーブレードが突き刺さっていた。鍵は破壊され、扉が開いていた。


「運が良かったんだ」


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