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93.招かれざる客人


 ノックの音は聞こえていた。てっきり侍女が入ってくるものだと思い、特段口は挟まなかった。音を聞き逃していた姉達からしたら突然の登場となったその人を目の前に、会話が静止する。


「久しぶりだねリリー。もしかしてまだあの事を怒っているのかい?」

「…………お姉様。他人の、しかも淑女の部屋に無断で入ってくる不躾な輩がいますわ。早く追い出しましょう」

「ノックならしたよ。入るという旨も伝えた。返答がないから勝手に入ったという結果にはなってるけど、ベアトリス嬢からリリーに会いに来る分は自由にして構わないと言われてるから……うん、言う程不躾ではないと思うけど」

「お姉様?怒りませんから勝手に許可したことについて説明してくださいませ」

「リリアンヌ、あのね」


 先ほどまでの雰囲気が更に悪化し、隣からとんでもないほどの冷気を感じ続ける。私は間違いなく巻き込み事故でそれを受けていた。そんなリリアンヌの様子を全く気にすることなく近付いてくる客人の心臓は強いと言えるだろう。


「よけいなお節介にはなるけれど……その、先日手紙をもらったから。訪問に関しては許可を出したの」

「お姉様にあまりこういうことは言いたくありませんが、本当にお節介極まりないですわ」

「ご、ごめんなさい」

「リリー、ベアトリス嬢を責めるのは違うよ。無理を言ったのは僕だからね」

「お姉様。悪いと思うのなら追い払ってくださいませ」

「それは」


 説明する必要がないくらい、尋常でない嫌悪を向ける。その客人はソファーを隔てて私とリリアンヌの間に立つと、お構いなしに口を開いた。


「それにしても珍しい光景だね。ということは進展があったと見受けるけど、話はまだ聞けそうにないね」

「するつもりはございませんのでご帰宅くださいませ」

 

 降り注ぐ冷気に絶えられず、思わず席を立った。


「……よろしければこちらにお座りになられますか、大公子様」


 そう口にすると、招かれざる客人はこちらへと視線を向けた。


「……驚いた。僕の事を知っているのかい?」

「基本情報のみ存じ上げております」

「そうだったんだね。……僕は君以上に社交界に出ない人間だから、認知されてないと思っていたよ」

「そんなことはありません。どこまで社交界に興味がなかろうと、重要な情報は知識として頭にいれておくべきですので。国の大公子ともあろう方ですから。尚更です」


 社交界に出ずとも悪評が有名なために認知度は高い私に比べると、我が国セシティスタの大公子は本当に社交界に顔を出さないことで有名だった。


「……愚問だったね。改めて自己紹介をしようか」

「それならば私から。レティシア・エルノーチェです。お見知りおきを」

「初めましてレティシア嬢。リリーから話は聞いてるよ。名はリカルド・フェルクス。知る通り、セシティスタの大公子という立場だ、よろしくね」

「よろしくお願いいたします」


 リカルド・フェルクス。現セシティスタ王国国王の弟である大公殿下の一人息子である。通称大公子と呼ばれ、謎多き人として認識していた。


「カルセインに自己紹介は不要だよね」

「……はい」


 軽い挨拶が済んだ様子を受け、配慮の意味を込めて尋ねた。


「リリアンヌお姉様との関係性は存じ上げませんが、ご用があるならば私はあちらへ」


 一礼してベアトリスの方へ向かおうとすると、リリアンヌに優しく掴まれる。


「必要ないわレティシア。座っていて」


 先ほどの冷気は薄まっており、凛とした声を響かせて立ち上がる。


「……はぁ。……押し掛けられたなら仕方ありません。話を聞きますわ。どうぞ、私の趣味の悪い部屋へ」

「弁明の時間をくれるリリーは相変わらず優しいね。じゃあ行こうか」

「…………」


 一瞬顔をしかめながら大公子のエスコートを無視する。


「おや」

「お姉様、少し席を外します」

「えぇ。ゆっくりね」

「そのつもりはないので」

「すまないねベアトリス嬢。そしてカルセインにレティシア嬢も。リリアンヌをお借りするよ」

「よろしくお願いいたします」


 リリアンヌと大公子は部屋を出ていくのであった。



 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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[良い点] リリアンヌお姉様のお相手?登場! [一言] どんな人なのか気になりますね!わくわく!
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