90.推察と進展
更新が遅れてしまい申し訳ありません。こちらを火曜日分の投稿とし、本日水曜日の更新はお休みとさせていただきます。
次回更新は木曜日です。よろしくお願いいたします。
意地悪な笑み。果たして笑みになっていたかはわからないが。似合わない笑みを薄めると、瞳を閉じて思考を巡らせる。
昨日から今日にかけての兄の行動や言動、謝罪姿勢。そしてそれを見る二人の姉。
全て自分なりに汲み取って考え抜いた結論だった。
兄相手に、こき使う旨が含まれた宣言を高らかにした。当然反射的な反応はなかったが、驚きを隠さない表情であったことは確かであった。
意外だと言わんばかりのリリアンヌに対して、どこか安堵の息をついたベアトリス。その反応をみて、読み取ったことに間違いはなさそうと安心する。
昨日の夜にあった三人の出来事を知る由はないが、少なくとも関係が悪化したことは感じられなかった。ならば好転したと考えるのが必然だろう。
自身達にとってはもちろん。私にとってさえ害がない、むしろ利益をもたらすと考えたからこそ、カルセインが目の前に立っているのだと推測した。
(私はお姉様達のことを信頼してるから)
そして、言い訳一切なしの真っ直ぐな謝罪姿勢。兄の謝罪を受け入れ償いを了解する形にするには十分な状況だった。
瞳をゆっくりと開くと真剣な雰囲気へと一転させて、カルセインに視線を投げる。
「……覚悟はいいですか、お兄様」
あまり表情に自信がある訳ではないが、差異をつけるように柔らかな笑みを浮かべた。一度目よりも重くなるように、凛とした声色で意思を尋ねる。自身の言葉が真剣なものであることを伝えるように。
「あぁ、もちろんだ。レティシアに益をもたらせるように動く。ここにそれを誓わせてほしい。……遠慮はいらない。とことんこき使ってくれ」
「……遠慮なんてしませんよ」
「そうだな。……ありがとう、レティシア」
「…………受け取っておきます」
その言葉を最後に、私達だけのやり取りは終了した。静観していた姉がようやく口を開く。
「……二人が決めたことなら、私は口を出さないわ。けれど一言言わせて。ありがとう、レティシア」
座っているベアトリスはこちらに体を向けながら話し始めた。
「何もしていませんよ」
「末っ子に気を遣わせるなんて、姉として失格なのよ。本当に不甲斐ないわ。……でもありがとう。こっちは私とリリアンヌを信じてくれた事への感謝」
「……気遣いくらいさせてください。末っ子でも」
「……そうね」
リリアンヌのように上手く伝えられはしないが、自分なりにベアトリスの心労を減らす言葉をかける。
「そうだわレティシア。カルセインが貴女を困らせたらすぐ私に言うのよ。仮にも兄で歳上で言いづらいこともあるでしょうから……」
「わかりました」
力強い言葉と温かな眼差しに笑みをこぼしながら頷く。それを受けて一瞬柔らかな笑みになるものの、どこかの申し訳なさから言葉を漏らす。
「……でも、やっぱり」
「素晴らしいわ、レティシア」
「リリアンヌお姉様」
その言葉はリリアンヌによってかき消された。さすがと言うべきか、ベアトリスの考えを熟知しているだけある行動だ。
背後から私の傍に近付くと、話を続けた。
「本当はカルセインの謝罪の前後に昨夜のことを話すつもりだったの。でもレティシアの答えから不必要であることがわかったから黙ることを選んだのだけれども。面白い攻撃も始まったしね。…………総じて優秀ね、私の妹は」
「リリアンヌお姉様、まだ私はその域にはいけてないですよ」
「ふふ。そうかしら?」
「……ですから、頑張ります」
「えぇ、期待しているわ」
昨夜のことは当然気になったし、カルセインとの関係をどうすべきか考えるためにも情報として手元に置きたかった。けれど、私は私。昨夜の出来事は、私とカルセインの関係には影響がないことに気付いた。
昨夜はあくまでも姉達の視点。私個人とは切り離して考えられるべき出来事だろう。そう考えると、むしろ話されなくて良かったのかもしれない。
「さてお姉様。何を仰ろうとしたか大方予想がつきますが、それは不要かと」
「……私もそう思います。これ以上ベアトリスお姉様がご自身を責める要素は何もないと思います」
リリアンヌから視線でのバトンを受け取り、ベアトリスへ思いを伝える。再びリリアンヌへバトンが移るかと思ったその時。
「二人の言う通りです、姉様。俺自身のことで何か罪悪感や後悔、申し訳なさ等。何かしらの負の感情を抱くのなら、それは間違っています。……確かに貴女は長女で、一定の姉としての責務や意志は存在すると思います。けどどうか、それを背負いすぎないで下さい。……二人もそう思っている筈です」
カルセインの見たこともない柔らかな笑みと行動に驚きながら、ベアトリスの反応を伺う。
「……三人に揃ってそう言われるなら、私もまだまだ成長しなくてはならないわね」
そう微笑む姿は、姉として更なる高みを目指すことを表していた。
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