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83.ある男の回想


 今回と次回がカルセイン視点となります。苦手な方はご注意下さい。



 傲慢で自分こそ王子妃にふさわしく、そしてその座につけることを何故か確信したような振る舞い。周囲の令嬢には文句を言わせないような態度を取り続けた。悪評もしかり、悪女のような姉だと思っていた。


 姉を出し抜こうと媚びを売ることを欠かさない。王子妃になるためなら如何なる浪費も厭わず、自身に大量のお金をかけてその座を狙う。周囲の令嬢とは一定の関係性を築くものの、彼女達は都合の良い取り巻き程度の存在。結局は自分。自己愛の強い妹とだと思っていた。


 末っ子として生まれ甘やかされ、自身の望みは何でも叶うと信じて疑わない。それ故に我が儘放題に育ち、気に入らないことがあればすぐに癇癪を起こす。完璧な二個上の姉(キャサリン)が気に入らなくて、事あるごとに絡んで迷惑をかけ続ける。どれだけ非常識な行いをしても、世界の中心は自分だからと言わんばかりの横暴な振る舞いしかできない妹だと思っていた。


 それは俺個人の彼女達の印象であると共に、社交界における彼女達の評価だった。

 気が付いた時にはその評価が定着し、疑うことをまるでしなかった。


 それ故に、心から嫌悪をしていた。三人とも俺の大嫌いな母親に似て育ったのだと思い込んで────。


  


 キャサリンだけが、四姉妹の中で唯一まともな人間だという考えが崩れ始めたのは建国祭の二日目の事だった。


 いつものようにレティシアがキャサリンに迷惑をかけたあげく、気に入らない出来事があったために癇癪を起こしたとの事だった。


 またかと思う反面、当たり前と化してきた件にため息すらでなかった。いつもと違い、建国祭で問題を起こしたということで謹慎させると父は話していた。父にその一件を報告する時、相変わらずキャサリンからは苦労が見えた。申し訳なさを感じながらも、それでもレティシアと向き合うことを止めないと述べる姿を見て父と二人感心したものだった。


 レティシアを呼び出して話を告げる。こちらも相変わらずの無表情。悪いことをしたのに反省をしていないのは明白だった。そんな態度に父も 痺れを切らしたのか、成長するよう苦言を呈した。それで終わる筈だった。


「面白いことを言いますね」


 終了の雰囲気は、レティシアから発せられたこの一言でガラリと変わった。部屋は静まり返っていたが、俺は唖然としてレティシアを見ていた。


 思えばレティシアの声を聞いたのはいつぶりだろうか。下手をすれば、何年も聞いていなかったのでは無いだろうか。そう頭に一瞬よぎる。


「成長しなさい、ですか。私の事を何も知らない。そんな方々に言われたくないお言葉ですね」


 その言葉は思った以上に俺を叩きつけた。理解が追い付く前に、更に追い討ちを受ける。


「謹慎はします、喜んで。お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。今後、キャサリンお姉様に、お二方にも関わることのないよう努力いたします」


 作られたものだとわかっているが、そこに添えられた笑みを見て更なる衝撃を受けた。言い終えたレティシアは颯爽と自室へと戻ったが、その後ろ姿を眺めることしかできなかった。


 自分のなかで確かな困惑が生まれていく。


 レティシアの言う通り、俺はレティシアの何を知っている? 何も知らない。知らないだろう。声を聞いたのが随分昔に感じた。……俺がレティシアとまともな会話をしたことがあっただろうか。


 そんな疑問に苛まれ始めた所で、父の声が聞こえた。


「何だあの態度は。癇癪の次は八つ当たりか。全く……救えないな」


 はぁと大きなため息をつく父。


 その姿と言葉を受けて、違和感を覚え始めた俺の考えは即座に打ち消されてしまった。


 そうだ、あの態度と行動は新手の癇癪なんだと。


 今ならわかる。俺は保身に走ったのだと。長年考えてきた……いや、思い込んできたことが間違っていると認めることができなかったのだ。


 父の意見に賛同しながらも、抱いた違和感は払拭されることは無かった。


 どこかもやもやが残る中、建国祭を終えると今度はキャサリンの生誕祭の準備が始まった。


 服を仕立てるために家に服飾店のものを呼びつけても良かったが、生憎時間に余裕がなかった。多忙を極める父と二人、ようやくできた時間で城下の服飾店に向かった。まさかそこでレティシアに会うとは思わなかった。


 あの日抱いた違和感は薄れていた為に、散財していることに不満を漏らした。


 黙り込む姿に、レティシアに対する違和感は消えていく。だが、それを遮ったのはもう一人の令嬢の存在だった。まさかあのレティシアに友人がいるとは思わなかった為に挨拶をしたが、まさかそれが失敗を呼ぶとは思いもしなかった。


 レティシアの隣に立っていたご令嬢は、言わずとも位の高い家のご令嬢だと察知した。それくらい貴族としての品のある立ち姿から雰囲気で、どこにも文句のつけようのない、まさに完璧な淑女だった。


 キャサリンも完璧な淑女だと思っていたが、その令嬢を見て本物とは彼女の事を言うのだろうと瞬時に理解したほどだった。


 まさかその人物が、妹だとも知らずに。 


 


 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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