80.知らなかった出来事
昨日、更新を突然休んでしまったことをお詫び申し上げます。代替にも過ぎませんが、少し早く投稿いたします。これからもよろしくお願いいたします。
名残惜しい空気の中、別れを告げる。レイノルト様に見送られながら、私はテラスを後にした。
元いたベアトリスの所に向かい到着すると、既にリリアンヌも戻ってきていた。遠目から見た時に二人が意味深な笑みを浮かべていたのが気になったが、果たして触れて良い話題か疑問が浮かぶ。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさいレティシア」
「……良い時間を過ごせたみたいね」
柔らかな笑顔に戻るリリアンヌに続き、ベアトリスはまた違った角度の意味深な笑みを浮かべる。その反応に戸惑いながらも、長女の配慮に向けて改めて感謝を述べた。
「気を遣っていただき、ありがとうございます」
「大したことじゃないわ。ただ、一番必要なことだと感じただけよ。……どうやら不安や後悔を少しは消化できたみたいね」
「本当だ……いつもより良い笑顔になってるわ、レティシア。何か良いことがあったの?」
「えっ…………」
誰と会っていたのか知らない様子で尋ねたリリアンヌだったが、すぐさま相手が思い付き生暖かい眼差しを向けられた。
「無粋な質問だったわね……忘れてくれると嬉しいわレティシア。貴女が幸せそうで何よりよ」
「あ、あの」
「詳しいことはまた後で聞かせてね」
「と、特別なことは何も……」
「まぁ、そうなの?笑顔の秘密くらい聞きたかったけど」
赤面する出来事を思い出しそうで、しどろもどろな答えをしてしまう。話したくないわけではないが、是非とも心の整理をしてから話したいものだ。
それを上手く伝えられずあたふたしていると、ベアトリスが助け船を出してくれた。
「やめなさいリリアンヌ、らしくない。品のある女性が貴女のウリでしょう」
「……確かに、今のは品の無い行動でしたね……。ごめんなさいね、レティシア。ちょっと色々あって気分が上がってたみたい」
「大丈夫ですよ、リリアンヌお姉様。後程、整理が上手くできたら話を聞いていただきたいです」
「もちろんよ……!」
上手く説明するためにも、テラスでの出来事を順を追ってまとめようと思った。丸くおさまり、姉妹の和やかな雰囲気が戻ってきかけた所でとんでもない爆弾が投下された。
「レティシアの心配をする気持ちはわかるけど。それを妹の恋路の心配と捉えるなら、私は貴女も心配よリリアンヌ。いい加減相手と仲直りを────」
「お姉様? 何か仰られましたか?」
「……はぁ、人の恋路を心配するのもたいせつだけど、まずは自分の問題を解決しなさいよ」
「問題……何の事だかわかりませんわ」
「……リリアンヌ」
「私は自分に非はないと思ってますし、何なら他の方と政略結婚しても構わないと思っておりますのよ?」
「…………そう」
「…………………………………………………………?」
二人の会話にいよいよ本格的についていけなくなると、私は固まってしまった。
(何だろう……まるで、リリアンヌお姉様に相手がいるような会話。でも、お姉様方は二人とも婚約者はいなかったはず。……もしかして、片想い?それにしては反応が違うような気が……)
一人で謎を解こうと考えを巡らせるが、当然正解にはたどり着けない。聞こうにも聞ける雰囲気でないことから、いつかの機会を狙おうと決めるのだった。
「まぁ、この話も含めて後にしましょう。今日はまだ終わりじゃないんだから」
「一生しなくて構いませんわ。……あら、準備が始まったみたい」
「準備……?」
流れるように話題が変わったが、リリアンヌの言うものを確認しようと視線を変える。会場の中心、キャサリンに注目すると彼女の近くにあるものが用意され始めた。
「あれは……くす玉?」
「そうよ。見るのは初めてかしら?」
「は、はい……」
私の知るくす玉は、金でできた丸いものだ。といってもこれは前世の知識な訳だが。目の前に準備されたくす玉らしきものは、金のベースに豪華な装飾が施されたとてもお洒落で豪華な見た目のくす玉だった。
「もう途絶えた風習だと思うけどね、昔はああやってくす玉でお祝いを行ってたみたいよ。物凄い昔はね。まぁ、ある種の儀式みたいなものかしら」
「へぇ……」
リリアンヌ曰く、誕生日祝いでくす玉を割るのは貴族の風習らしい。といっても本当に昔のことらしく、今やる人は少ないんだとか。
「昔はあの中にお金をいれてお祝いをした貴族もいたみたいよ。下品なパーティーの一種でね。……誰もやろうと思わない古い祝い方を、何故かキャサリンは提示して用意させたのよね」
「そうだったんですね」
「おかしいと思わない?」
「……確かに」
「くす玉って、お金じゃなくともお祝いの品を何かあの中に入れておくのよ。家族がね。新品のものであれば、それを使ってほしくて入れたと取れるし、古いものであれば慕っていると取ることができる」
リリアンヌの何かを見越した言い方から、言いたいことが予想できた。
「…………もしかして、それを利用するつもりで?」
「さすがレティシア、賢いわね。そう、キャサリンはあれを利用して貴女の大切な何かを勝手にいれて、自分の事を慕っている演出をしようとしたみたいよ」
「それって……」
「安心して。ものは回収済みだから。だから安心して今日の最後を楽しみましょう?」
「た、楽しむ……?」
私は首をかしげながら、少し困惑気味に復唱した。発言した本人は不敵な笑みを浮かべながら、楽しそうな視線をくす玉とキャサリンへ向けている。その様子をベアトリスはやれやれといった姿で見つめていた。
どうやらキャサリンは私の知らないところで、私の覚えの無い私物を用意した挙げ句に自身のための脚本を描いていたようだった。何一つ知らなかった私からすると、してやられたと悔しがる場面のはずだった。だが、どうやらそれはリリアンヌによって防がれたらしい。
理解が追い付いた時、くす玉が割れた。
「おめでとうございます、キャサリン様!」
「まぁ、中身は何かしら?」
「これは……?」
騒がしい中、くす玉から紙吹雪が起こった。しかしそれはよく見ると紙幣であった。
「お金…………」
その存在に気付いた貴族は静まりかえり、くす玉を割った本人であるキャサリンは、一瞬こちらを向くと鋭い視線で睨み付けていた。
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