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74.知る者の反撃


 扇子を広げて戦闘態勢を取る。学び得たことが発揮された為、少し離れた場所で喜びの笑みをニヤリと浮かべるリリアンヌが見えた。ベアトリスとレイノルト様もまたそれぞれの場所でこちらを見守っている。そしてラナは、会場の料理を整理しながらこちらに視線を向けていた。


 視界に味方が入る、ただそれだけで心が段違いに軽くなっていく。それを証明するかのように、私は扇子を畳んだ状態に戻すとキャサリンに向けて言葉を続けた。


「今日は生誕祭。とてもおめでたい日ですね、お姉様」

「あ、ありがとう」

「歳を重ねるにつれ、人は成長するというもの。ですが、己の事を自分だけで把握するのは難しいことです。ですので、今日はお姉様がまた一段と大人になられることをお手伝いさせていただければと思います。特別なことは、特別な機会でしかできないものですから」

「そ、そう、ね……?」


 地方の一件の時は、まだ癇癪とも取れる言動だった。しかし今日は饒舌に言葉を並べている。恐らくその姿を見るのは初めてのことだろう。動揺が焦りを呼び、おかしな提案にも作られた優しい笑みで応えてしまう。余裕が無いのは明らかだった。

 

「お姉様、思っていないのならば謝罪などするべきではありませんよ。その結果、更に私を蔑ろにする形になっていますから」

「私……そんなつもりは」


 目線を下げながら、今度は私が悲しい雰囲気を出す。悲壮感を醸し出せるのは、何もキャサリンだけではない。だが、あくまでも今日は()()()()()()()()()()()でなくてはならない。私が悲劇のヒロインになる必要はどこにもないため、悲壮感は程々にしておく。


「それと、話を捏造される悪癖は直された方がいいですよ」

「……捏造なんてしたことはないわっ」


 キャサリンこそ正に女優。動揺から直ぐ様建て直し、私を悪に見えるように劇を開始した。


「あら。ついさっきも捏造されたではありませんか」


 畳んだ扇子を顎に近付けながらキョトンと首をかしげる。表情筋が弱くても、小技で雰囲気を作っていく。


「そんなこ」

「そんなことありますよね?ではお聞きしますが、何故私がこのドレスを着て現れたらお姉様が安心なさるのですか」

「それは……」


 それに負けじと悲壮感を膨らませる。


「……いつも、私の選んだドレスは着て貰えなかったでしょう?でも今日は着て貰えたから……てっきり、それがレティシアなりの祝福だと思ったのだけれど、私の思い違いみたいね」


 キャサリンの発した言葉から、キャサリンを常に取り巻いていた令嬢が讃える言葉を交わしていく。


「素敵なお召し物だと思ったら、キャサリン様が選ばれたのね。さすがだわ」

「えぇ。素晴らしいセンスよねぇ。王子妃候補に選ばれるだけあるわ。それなのにレティシア様ったら、何が不満なのかしら」

「本当にね」


 その言葉をきっかけに、周囲の貴族からもいつものような反応が繰り広げられる。

 キャサリンが絶対的正義であり、それに楯突く妹レティシアは絶対的悪だと。


 作り上げられたその世界に酔っているのか、それとも長年の悪癖が身に染み付いているからか、息をするように虚言を発していることに本人さえも気付いていないようだ。

 空気が圧倒的にキャサリン側になるものの、そんなものお構いなしに答えた。


「思い違いも甚だしいですね」

「そう、よね。ごめんなさいレティ」

「そもそもこのドレスはキャサリンお姉様から贈られたものではないのに。それなのに安心なさるのですか?おかしな話ですね」

「レ、レティシア……センスを自分の物にしたい気持ちはわかるけど……でも、嘘はよくないわ」


 キャサリンの言葉に援護をするかのように、彼女の味方が現れた。


「……何をしているんだ、レティシア」

「お兄様、エドモンド殿下……」

「嘘、と聞こえたけれど……大丈夫かい?キャサリン嬢」

「私は、平気にございます……。ただ、レティシアが」


 何度も経験しているからこの後誰が口を開くのかがわかる。何を言うのかも。だから私は兄の発言を待たずに、こちらから仕掛けた。


「お兄様、先日城下の装飾店でお会いしましたよね?」

「あ、あぁ」

「このドレスはその時に購入したものです。その日、キャサリンお姉様に付き添われた記憶は私にはありません。お兄様、私の隣に立っていたのが何方か覚えてらっしゃいますか?」

「それは…………」

「まさか、ご自身の妹の顔も忘れられたのですか?」

「────っ!」


 その言葉は、私のものではなかった。あの日、それは本人に言われたのだから。


 あの日の衝撃が呼び戻されたからか、兄の体はピタリと止まり、表情が複雑なものなっていった。何かの葛藤が垣間見えたが、それを終えると彼は真実を告げた。


「……リリアンヌ、だったな」

「!!」


 その言葉に周囲の貴族からざわめきが起こる。だが、何よりも衝撃を受けていたのはキャサリンであった。


(裏切られた、みたいな顔をしてるけど……カルセインお兄様はあくまでも真実を語っただけ。何を勘違いしてるんでしょうね)


 毎度のように兄に助けを求めていたが、私にはそれは利用しているようにしか見えなかった。私とベアトリスとリリアンヌのような、姉妹として家族としての好意的な感情は、一切持っていなかったと思う。


 自分を良くしてくれる、身近な存在(道具)。としか思っていなかったのだろう。


(……関わりの低い私の方が、カルセインお兄様の人間性がどんなものかわかる気がする)


 改めて、キャサリンの考えが見えてきた。それと同時に、ほんの少しだけカルセインに同情するのだった。



 


 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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