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61.考え込む令嬢


 少しの間沈黙が続くと、リリアンヌは意を決した様子でこちらを見た。


「……レティシア。貴女はそのお相手の人のことをどう思っているの?」

「どう、ですか。…………………………」

(レイノルト様は背中を押してくれて、変わるきっかけをくれた人。その感謝は計り知れない)

「……とても感謝をしています」

「感謝……そう。他には何かある?」

「他に、ですか?いえ。特にはありません」


 私自身がレイノルト様に抱く思いは、感謝一択だ。他にどんな思いを持っているのかは考えたことはないし、感じたこともない。それが答えなので戸惑うことなく伝えると、何故かリリアンヌの方が動揺をしている。


「感謝はとても大切だと思うわ。……確認のために聞くけれど、手作りのものが欲しいって言われたのよね?」

「はい」

「それって例えばクッキーが食べたい。お店は問わない、何なら手作りでも良い。みたいな雰囲気かしら」

「いえ、手作りならば何でも良いと言われました」

「……そう、なのね」


 どこか曖昧な反応をするリリアンヌに、どことなく不安が押し寄せてくる。ベアトリスは心なしか難しそうな表情になってきている。異様なこの空気に、少しずつ焦りはじめるものの対処法がわからず黙っていた。


「……ちなみにだけれどレティシア。貴女さえ良ければ、お相手の名前を聞いてもいいかしら。レティシアがお世話になった相手ですもの。いずれ私もお姉様と挨拶に伺わないと。ねぇ、お姉様」

「え、あ、……そうね。リリアンヌの言う通りだわ。レティシアが変わるきっかけをくれた人なら恩人も同然。是非名前を聞かせて欲しいわ」

「はい。フィルナリア帝国大公のレイノルト・リーンベルク様です」


 その名前を告げた瞬間、リリアンヌの表情が固まってしまった。ベアトリスは特に反応することなく頷いていたが、リリアンヌは明らかに何かを察していた。


「……ご存知ですか、リリアンヌお姉様」

「え、……えぇ。もちろんよ。帝国の大公ですもの、お名前だけ聞いたことはあるわ」

「私も名前だけなら」


 どうやら二人は会ったことは無い様子だった。確かに人との接触を避けていたレイノルト様ならばあり得ることだろう、そうと思っているとリリアンヌが平常運転に戻った。


「……なるほどね、爵位の高い方から要求されては無下にはできないわよね。それならしっかりと用意しましょう。手作りに関しては本があったと思うから、私が取ってくるわ」

「それなら私も行きます」

「いいの、レティシアはゆっくりしていて。昨日出掛けて、尚且つ明日出勤ならば休める時に休んでおかないと。ここは明日も暇な私とお姉様ですぐに取ってくるから、待ってて」

「ありがとうございます」


 優しい笑みと心遣いに甘えて、浮かせた腰を落とした。


「さ、お姉様行きましょう」

「えぇ」


 二人は言葉通り少しだけ急ぎ足で図書室へと向かった。



◆◆◆


〈リリアンヌ視点〉


 

 何一つ相手の意図を理解していないレティシアの姿を見て、頭を抱えた。だがそれだけ勤務に励み、恋とは無縁に生きてきたことが容易に察せた。


「はぁ…………」


 レティシアの部屋から大分離れると、大きくため息をついた。


「珍しいわね、リリアンヌがため息だなんて」

「ため息をつきたくなる気持ちはお姉様も良くおわかりでしょう? ……もしかしてお姉様まで何もわかっていないことはありませんよね」

「まさか。さすがに異性から手作りを頼まれることが、好意の表現であることくらいわかるわよ」

「ならよかったです」


 とにかくレティシアからの相談をどう答え、そして気づいていないこの()()に関しては触れるべきなのか、私は頭を悩ませていた。


「でもレティシアはその好意にちっとも気付いていない様子だったわね」

「そこが問題なんですよお姉様。好意を寄せてきた相手が格下の人間ならあしらうことを進める手もありました。ですが大公、しかも帝国の。これは厄介極まりないです」

「……確かに」


 事の重大さに段々と気付き始める姉を横に、さらに続けた。


「格上なことは確実に厄介ですが……」

「他に何かあるの?」

「いえ、私が知る情報では大公は婚約者がいらっしゃらない御方です。その上結婚する気はないという噂も耳に届いています。真相はわかりませんが、女性嫌いの話を何度も聞きました」

「貴女の知り合いからね?」

「そうです」


 悪評を体現していた頃は、私にすり寄ってくる令嬢は一定数いた。所謂取り巻きであったが、脆い人脈は形成されていたと思う。ある時知り合いという経由で紹介されたフィルナリアの伯爵令嬢から、何度も大公の話を聞かされた。

 その際に耳にしたのが、“大公が女性との関わりは一線を引いて決してそこから踏み入れないし踏み込ませない”というものだった。

 その話を思い出すと、どうにも手作りを要求した姿がピンとこない。だが、最悪の状況を予想すると大公はレティシアにかなりの好意を抱いているという考えにたどり着く。


(そうなってくるとかなり面倒……レティシアも同じく好意を抱いているのなら良いけれど、あの様子じゃそもそも恋愛に関心すら持ってなさそうだから)


 頭を悩ませながら、姉と二人図書室へと向かうのだった。




 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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