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316.第二王子の意志


 オルディオ殿下は、終始苦し気に話し続けていた。


「……イノは、影武者としての役目を全うするつもりで、私には何も伝えなかったんです。シグノアス公爵家から手紙が来ていたのも隠して、一人で全て背負おうとしていました」


 イノさんが残した手紙には、自分が役目を果たすことが簡潔に書かれていたという。

そして今のエルノーチェ公爵家の警備体制は、イノさんなりに考えた行動だろうとオルディオ殿下は推察された。


「……あの馬鹿」


 オルディオ殿下は今にも泣きだしそうな顔で、手に力を込めていた。


「……ベアトリス嬢に会いに行けなくなったのは、巻き込みたくなかったから。ですが、もう少し考えるべきでした。まさか、シグノアス公爵が第二王子の婚約者に彼女を選ぶとは思わなかったのです」


 オルディオ殿下の立場では、身動きも取れなかったことだろう。正直、ベアトリスから話を聞いた時は「お姉様を弄んで……!」と怒りに満ちていたが、全く逆の配慮から生まれた行動に、胸が痛くなった。


「彼女は……婚約を受け入れましたか?」


 少し間を空けてから、オルディオ殿下はどこか不安げに尋ねた。


「……いいえ。お姉様は婚約を受け入れる気はないかと」

「そう、ですか」


 これだけ聞けば、第二王子と婚約しなかったベアトリスとして映り、オルディオ殿下には一つも興味がないと捉えられるだろう。だけどベアトリスは違う。それを伝えるために、順序だてて説明することにした。


「今の第二王子の婚約は、少なくとも受け入れないと思いますよ」

「え……?」

「先日シグノアス公爵主催の夜会に出席しました。そこでお会いした第二王子が、恐らくイノさんだと思います」

「イノが……!」


 シグノアス公爵家で会った、仮面をつけた第二王子について詳細に話す。


「仮面を……」

「決して取ろうとされませんでした。これだけ考えれば、シグノアス公爵もオルディオ殿下とわかっている可能性はありますか?」

「……その可能性は低いかと。長年顔を合わせていないので、イノであっても気が付かないと思いますよ。極論、髪が青ければ信じるかと」

「なるほど……」


 オルディオ殿下は、自嘲気味に仮面の意味を推測した。


「母が……王妃が私の顔を酷く嫌っていましたから。もしかしたら、それが理由かもしれませんね」

「……」


 オルディオ殿下の境遇には心が苦しくなったが、仮面の理由には凄く納得できた。暗い顔をするオルディオ殿下に、私は一番伝えたかったことを言葉にする。


「顔が見えなくてもお姉様はわかっておられました。彼はオル様ではない、そう断言していました」

「!!」」


 ベアトリスは、第二王子でもなく、イノさんでもなく、ただ一人オル様を求めているのだ。その事実を、本人であるオルディオ殿下に伝える。


「ベアトリスが……」


 再びオルディオ殿下は泣き出しそうになる。だがそれは、喜びの方の表情だった。


「殿下。お姉様はオル様をお待ちしております。現状、エルノーチェ公爵家にオルディオ殿下が近付くことは難しいかもしれません。ですがどうか、それだけは知っていただきたくて」

「…………」


 想い合っているのに会えない状況は非常にもどかしくて悔しかったが、それはオルディオ殿下も同じようだった。


「……ありがとうございます、レティシア嬢、レイノルト殿下」


 何かを決意した殿下は、顔を上げて真っすぐとこちらを見据えた。


「私は必ずイノを助けて……そして、絶対にベアトリスの元へ行きます。そのために、シグノアス公爵を失脚させるつもりです」

「!」

「なるほど。もう既に動かれているんですね」

「はい」


 察しの良いレイノルト様は微笑みながら頷いた。


「私は今度こそ、王位継承権を放棄すると宣言します。そうすれば、必然的にリカルドしか王位を継げなくなりますから」

「そうですね」

「今抱える問題としては、一つはイノの安全の確保です。それと、シグノアス公爵家を失墜させるだけの材料が私にはありません。それを集めねば」

「……今の状況だと、影武者を用意したのはオルディオ殿下側ですから、確かにこの件ではシグノアス公爵家にそこまで追い詰めることはできませんね」


 王位継承問題を解決できても、今のままではシグノアス公爵はしぶとく生き残るだろう。オルディオ殿下は、自身の未来のためにそれだけは避けたいということだった。


「それと……実はこの隠れ家も危ういんです。最近、シグノアス公爵がトランの地を再び調査し始めまして」

「……弱みを見つけにきたのでしょうか」

「その可能性は高いかと」


 今はイノさんと入れ替わっているとはいえ、ここを調査されるのはオルディオ殿下にとっては避けたいことだった。


「……オルディオ殿下。一度私の持つ屋敷に身を潜めましょう」

「それはつまり」

「はい。フィルナリア帝国の者が来訪した時専用の屋敷です」

「よいの、ですか」

「もちろん。私達は殿下側の人間ですから」


 レイノルト様の言葉に、私も力強く頷いた。シグノアス公爵を失墜させたいのは、恐らくエルノーチェ公爵家としても総意で思っているから。目的が合致している今、助けない理由がない。


 オルディオ殿下は、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます……この御恩、決して忘れません」



 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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