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309.駆け引きと真実


 突如後ろから聞こえた声に驚いて振り向けば、そこには初対面の男性が切実そうな眼差しで立っていた。私の肩に触れた手を、レイノルト様が反射的に払い落とす。そして、自分の方に抱き寄せて、男性に冷めた眼差しで尋ねた。


「私の妻に何か」

「あ………………す、すみません。人違いを」


 男性は私の顔をよく見ると、自分が勘違いをしていることに気が付いた。しかし私は、彼が“プティ”と呼んだのを聞き逃さなかった。


「私はプティではありません」

「……申し訳」

「ですが、プティという名前の方なら存じ上げております」

「!!」


 男性の謝罪に被せるように、私は力強い声で伝えた。


「……貴女は一体」


 私の発言は、男性を却って警戒させてしまった。尋ねられてどこまで答えるか一瞬悩んだものの、私は真実だけを告げることにした。


「プティの妹です」

「…………」


 そう言われるだけでは警戒は解けない。そう思うと、決定的な言葉を伝えた。


「貴方はオル様、ですか?」

「!!」

「私は、お姉様の代わりにオル様を探しに参りました。……屋敷から自由に外出できない姉のために」

「……それなら貴女はレティシア嬢、なのか」

「はい」


 警戒が薄まったのを見ると、私は話を聞けないか男性に尋ねた。


「もしよろしければ、お話をお聞かせ願えませんか」

「…………」

「私ならば、お姉様へ伝言することが可能です」


 悩んでいた男性は、その声に顔を上げてこくりと頷いた。


「……こちらへ。話すのに最適な場所へ案内します」


 男性の後について行くと、そこは隠れ家のような場所だった。


「あまり綺麗な場所ではありませんが」

「お構いなく……」

 

 そう答えるものの、内装はとても貴族が住むような場所には思えなかった。用意してもらった椅子に向き合うように座る。


「…………もう一度お聞きしても?」

「……はい。貴女の言うように、私がオルで間違いありません」

(…………どこから聞くべきかしら)


 目の前の男性がオル様と判明した今、聞きたいことは山ほどあった。しかし、何から切り出せば良いかまではわからなかった。すると、レイノルト様が助け舟を出してくれた。


「オル殿。いえ、オルディオ殿下とお呼びした方がよろしいでしょうか」

「……オルはただの偽名ですよ。髪も青くないでしょう」


 オル様の言う通り髪色は青色ではなく、そこからかけ離れた茶色であった。


「髪色は変えられても、瞳の色までは変えられなかったようですね。私が幼少期にお会いしたオルディオ殿下の瞳は、貴方と同じ青緑色だったかと」

「!!」

(……幼少期!)


 レイノルト様の言葉に驚くオル様は、言葉を失いながらレイノルト様を見つめた。


「……帝国の第二王子」

「えぇ、貴方と同じ」

「…………」


 オル様はその返しに、どこか諦めたようにため息をついた。


「これはもう、隠しようがありませんね。……えぇ、私がオルディオです」

「お久しぶりですね」

「……お久しぶりです、レイノルト殿下」

「今は大公ですので。そしてレティシアは私の妻です」


 すっかり定着してしまった妻呼びだが、訂正するのも申し訳なさを感じるので黙って微笑んだ。


「……あぁ、そんな話を耳にしました。エルノーチェ公爵家から一人ご令嬢が帝国に嫁がれたと。本当だったのですね」

「はい、事実です」


 そう話す様子は、社交界の情報に疎い姿を感じた。そこからは、レイノルト様が丁寧に話を進めてくれた。


「オルディオ殿下。貴方が第二王子と確定した今、昨日シグノアス公爵の夜会で姿を現した男性は影武者という認識になりますが、間違いありませんか?」

「……えぇ。彼は私の腹心です」

(腹心……)


 オル様……オルディオ殿下は、腹心は昔からの仲だと語った。何でも、幼少期の時に影武者をしてから、王城を出ることになった時もオルディオ殿下の傍を離れなかったのだとか。その後、影武者の男性と共に騎士を目指し、支え合って来た仲だと話してくれた。


 その確認を取ると、今度は私が今日感じた疑問を尋ねる。


「……オルディオ殿下。殿下は私の名前をわかっていらっしゃいましたよね」

「……エルノーチェ公爵家のご令嬢の名前はわかるものでは」

「いえ、私はプティの妹としか名乗っていません。と言うことは、殿下はプティがお姉様だと……ベアトリス・エルノーチェだとわかっていたということですね?」

「!」


 そう。私は最初、プティの妹と言った。もちろん、外見から私をレティシアだと判断する方法もある。しかし、今の私は変装をしているのだ。初対面である私の顔をオルディオ殿下がわかるとは思えないため、やり取りから疑問を感じていた。


「…………もしや、プティがお姉様とわかって近付いたのですか? お姉様と仲を深めれば良い後ろ盾になるとーー」

「違います……!」


 今度はオルディオ殿下が私の言葉を遮る番だった。


「……信じてもらえるかわかりませんが、私は本当にプティ様を……ベアトリス嬢を……」


 ぎゅっと手に力を入れるオルディオ殿下。どこか苦しそうにも見える表情は、こちらまで胸が締め付けられてしまった。


「……よろしければお聞かせ願えませんか。お姉様と知って近付かれた理由を」


 そう尋ねれば、少しの沈黙の後にオルディオ殿下はベアトリスとの出会いを語り始めた。


「…………ベアトリス嬢との出会いは、幼少期でした」



 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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