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271.二つの恩返し




 無事リトスさんとフェリア様のデートが終了した。マティルダとの一件から時間が経ち、私の心も安定してきた。


 穏やかな日を過ごしていたある日、エリンの誕生日が近いという話をシェイラが教えてくれた。


「誕生日……」

「はい。一応、書類上では三日後となっております」


 エリンが別の仕事をこなす中、部屋には私とシェイラの二人だけだった。


 書類上。


 シェイラがそう表現するには理由があった。エリンは本人の口から教えられた通り、孤児であったため、本当の年齢はもちろん誕生日さえも明らかになっていない。


 そんな中、三日後祝うことが正解なのかわからなかった。それに加えて、私にできることがないか、考え込んでいた。


(……あんなに助けてもらって、私は結局エリンに何も返せていないわ)


 何か贈り物を考えれば、その度に受け取るつもりがないと言われてしまった。エリン曰く、それが自分の仕事だからと。その思いは理解できるので、尊重しようと思って贈り物をすることはやめた。


 ただ、やはりそれでは私の中でもどかしさが残っていた。何せ、エリンは命の恩人だから。


「……シェイラは、自分のことを知れたら嬉しいと思う?」

「……私なら嬉しいですね。それと、これはあくまでも偏見と憶測ですが」

「えぇ」


 考えていたことがふと漏れでてシェイラに尋ねたが、曖昧な疑問にもかかわらず、彼女は丁寧に答えてくれた。


「名もなき者ほど、自分の価値を証明したいと願うと聞いたことがあります。その理由は、生まれてから生きてきた日まで、本当の自分として持っていた肩書きや情報が何もないからと」


 その言葉を聞いて、エリンが自身を語るときに震えていたことを思い出した。


(エリンは……自分が施設出身であることで、私が軽蔑するのでないかと不安視していたのよね)


 エリンが自分のことを知らないと語る時、その眼差しは酷く寂しそうなものだった。


「それはエリンもきっと同じです。だから影となり、自分にできる限りのことをした。元をたどれば、養子となったわけですが、それでは補えないことがあります」


 生まれながらに持った心の傷。これをもしかしたら癒せるかもしれないが、過去に触れたくない者もいる。……それでもエリンなら前者だと思える要素があった。


「……私はそれを補いたいと思うわ」

「素晴らしいお考えかと」


 これがせめてもの恩返しになるのなら。


 そう思いながらシェイラに決意を告げた。すると、そのタイミングで扉がノックされた。


「お嬢様、お客様です」

「あら、リトスさん」


 シェイラに呼ばれ訪問者を確認すると、そこにはリトスさんが立っていた。


「姫君!」

「どうなさいましたか?」

「報告に……実はこの度、フェリア様とお付き合いをすることにしたんだ」

「本当ですか! それじゃあ、成功したんですね!!」

「あぁ! 姫君の凄すぎる化粧のおかげだよ。本当二ありがとう!」

「全てはリトス様の努力の結果ですから。本当におめでとうございます」


 その後をまだ知らなかった身としては、これほどまでに嬉しい報告はなかった。


(後でフェリア様にお祝いの手紙を送りましょう)


 微笑みを浮かべていると、リトスさんは恥ずかしそうに続けた。


「助けてもらったからには恩返しがしたいんだけど、何せ俺にできることは限られてるからな……」

「お心だけでーー」


 その瞬間、リトスさんが情報屋であることを思い出した。遠慮しようとした言葉をすぐさま呑み込んだ。


「……リトスさん。化粧の代わりとして、お仕事を頼んでも良いですか?」

「もちろん! 何でも引き受けるよ!」

「実は、私の侍女に関する話なのですが」


 リトスさんに事情を説明すると、依頼内容を告げた。


「その侍女……エリンについて明らかにすることは可能でしょうか」

「あぁ、任せてくれ。これは大公家の情報屋として、必ず明らかにすると約束するよ」

「ありがとうございます……!」

 

 無事依頼が完了すると、リトスさんを見送ってから部屋へと戻るのだった。



 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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