268.二人の恋模様⑤
フェリア視点です。
「……フェリア様が、一番綺麗ですね」
そう言われた時は、とうとう幻聴が聞こえてしまったのかと思った。けど、間違いなくリトス様の口は動いていたのだ。
(い、今のどういう意味……?)
リトス様は確かに一番綺麗だと言った。それも、私の名前を告げて。
(どういう意味もないわよね。き、きっと単純に褒めてくださったんだわ)
そう思いながら感謝を伝えて受けとるも、やはり本意が気になってしまった。
(でも……すごく嬉しいわ。慕っている方に褒めていただけるなんて)
それでも嬉しさが込み上げて、自分の心を完璧に覆った。言葉の余韻に一人浸っていると、沈黙が流れていることに気が付かなかった。
はっと我に返った頃には、真剣な眼差しでこちらを見つめるリトス様がいたのだ。そして、思いもよらない告白を受けた。
「……フェリア様が一番綺麗です。私にとって、時間を忘れるほど、どの花よりも永遠に見ていたい、傍にいたいのはフェリア様です。……貴女の隣が、一番落ち着くから」
その瞬間、今度は本気で夢を見ているのではないかと心の底から感じた。思考が停止すると、送られた言葉の意味を理解することもできなくなってしまった。
(………………………………………………………え?)
ただ静かに意識だけはリトス様に奪われながら、現実を受け止めたいのに頭がまるで動かなかった。
(き、きっと都合の良い夢を見ているんだわ。だってこんなことあり得ないもの。……こんな、自分の望みが叶うようなこと……)
それでも、リトス様の真剣で熱く誠実な眼差しは、少しもぶれることなく私を射抜いていた。
(…………現実、なのかしら。夢じゃないのかしら)
どうか夢でいないで欲しい。そう思うと、下を向いてぎゅっと目蓋を閉じた。目を開いても、そこには地面あって、花が咲いているだけ。何も景色は変わらない。
(…………夢なら覚めているわ)
目を瞑って開けても、何一つ変化はなかった。ということはきっと、いや絶対、幻想じゃない。
そう確信を得ると、私は顔を上げて彼の名前を呼んだ。
「リトス様」
「…………」
今度は私から視線を合わせると、顔いっぱいに笑みを広げて、私の想いを答えた。
「……私も、リトス様と同じ想いですわ」
「!!」
この言葉は予想されていなかったものなのか、リトス様は目を真ん丸にして驚いていた。
「あ…………」
「…………」
ただ笑みを浮かべながら、固まってしまったリトス様を眺める。驚く表情さえ可愛らしく、愛おしく思ってしまうほどに、私の気持ちは溢れていた。
「……フェ、フェリア様」
「はい、リトス様」
「……抱き締めても、良いですか?」
「……もちろんです」
抱き締める理由はすぐにわかった。
(……リトス様も、私と同じ気持ちなんだわ)
そう。現実かどうかを、彼もまた確かめようとしていたのだ。
提案に頷いたはいいものの、リトス様はぎこちない動きで手をゆっくり伸ばした。そっと近付くと、これでもないと言えるほど優しい手付きで、私の背中に手を回した。
完全に抱き締めているわけではなく、少し空間が生まれるような距離だった。
(い、今! リ、リトス様に抱き締められてる……!)
リトス様に包まれると、高鳴る鼓動を止めることはできなくなっていった。けどもう、その音は聞こえて良いとさえ思ってしまった。
「…………夢じゃない」
そっと顔をリトス様の胸に近付けた時、リトス様からボソリと呟く声が聞こえた。
「……夢じゃありませんよ」
リトス様に届くように、私は彼の呟きに反応した。その瞬間、リトス様が抱き締める力を一気に強めた。
「ーーっ!」
突然の行動に、私は一気に顔を赤くしてしまった。
「ずっとお慕いしてました……フェリア様のことが好きで好きで仕方ありませんでした……!!」
(ま、待ってくださいリトス様! 今度は本当に脳内の処理が追い付きませんわ!!)
リトス様の中で何かが破裂したように、彼は一気に想いを言葉と動きで伝えてきていた。息つく暇もなく、私はただずっと受け身でいるしかなかった。
「そんな俺でも……大丈夫ですか?」
そして、最後に震えた声が耳元に落ちてきた。彼の奥底にある、まだ現実と受け入れられないわずかの恐怖が見えた気がした。
その瞬間、私もリトス様の背中に腕を回した。
「リトス様。私もずっと、リトス様のことをお慕いしておりました。貴方にずっと近付きたくて、声が聞きたくて。想いが今、すごく溢れています」
「!!」
「私にはリトス様しかおりませんわ」
「フェリア様……っ」
私を呼ぶその声からは、もう恐れが消えた純粋の喜びの色をしているように思えた。
(良かった……伝えられたわ)
リトス様に想いが届いたことが確認できると、私は一気に緊張が解けていった。
そして、私達は夕日に照らされながら、二人だけの時間を過ごすのだった。
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