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22.迎えた建国祭


 ベアトリスの予想もしなかった行動は、どうやら夢でも幻でもなかった。夕飯を済ませると、私が適当に選んだ三着のドレスとそれに合わせた装飾品も一緒に部屋へと届けられた。


 一連の行動は、本当に代理出席の件での感謝の表れだと考えることにした。ありがたいことに譲り受けたドレスのおかげで、新調する必要がなくなった。これで三日間乗り切ることができると複雑ながらも安堵した。


 今、そのドレスを身に着けてパーティーへと足を運んでいる。


 不思議なことにドレスはどれも普段ベアトリスが身に着けるような華美なものではなく、むしろ真逆と言って良いほどシンプルで尚且つ品の良さが際立つものだった。


 その中でも今日は、水色基調のものを選んだ。


 ベアトリス自身が選んだとするのならばセンスの良さが輝くといっても過言ではない。だが、侍女が適当に選んだもので気に入らなかったという線も否定はできない。


 相変わらず人気のない場所の隅に一人佇みながら、グラス片手に考え込んでいた。


(今日はどのお姉様とも会場が被らなかったな)


 建国祭と称するだけあって国内全ての貴族が催しに参加をする。初日と二日目はそれぞれの地方や場所でパーティーが同時開催される。最終日は王城で盛大に行うという日程。


 毎年どの会場にも身内がいるのだが、今日は見当たらない。姉三人は王子様方のいる会場だと容易に予想がつく。父と兄もいないため、知り合いが一人もいない中静かに飲み物を飲んでいた。


(帰れるものなら帰りたいんだけど、それだと目立つからなぁ)


 年頃の令嬢は皆姉達と同じ会場なのか、この会場では殆ど見かけない。それが禍したのか、同年代の令息方に声をかけられ始めた。


「エルノーチェ様、よろしけれは私と共に一曲どうでしょうか」

「……気分ではないので」


 最初の方こそ丁重にお断りをしていたのだが、そんなことなどお構い無しのように次から次へと申し込みが入る。


 いるのだ、悪評など気にもしないという令息は。


 大抵は私とではなく、エルノーチェ公爵家との繋がり持ちたさに接触を試みる。中にはしつこい人もいて、断っているのにめげないから良い迷惑だ。それに比例して、私の答えも雑になっていく。


(こんなことならお姉様達と同じ会場にすれば良かった)


 それはそれでまた違う面倒事になるなと、内心溜め息をつきながら対応を続けた。


「そんなことを仰らずに、是非」

「遠慮致しますわ」


 悪評通りここで癇癪でも起こしてやろうかと思うほど、話の通じない相手も出始めた。無表情もある意味保てなくなると感じ始めた時、思いがけない人物から声がかかった。


「レディ、ダンスの申し込みは私も不可でしょうか」

「……!」


 颯爽と現れたレイノルト様は、周囲の令息が余裕で霞むほどの輝きを放ちながら手を差し出した。恐らく助け船を出してくれているのだろうと感じた私は、速攻で手をとった。


「いいえ、お受け致します」

「良かった、では一曲踊りましょう」

「はい」

(助かった……)


 令息達は流石に太刀打ちできる相手ではないと察したのか、無言で私達の後ろ姿を眺めていた。


 壁際からホールへと移動し終えると手を離して感謝を伝えた。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」

「大したことはしていませんよ。それよりもレディ、踊ってはいただけないのでしょうか」

「あ……あの、ダンスは好きではないと以前仰って」

「今日は踊りたい気分なので、よろしければ」


 そんなつもりは一ミリもなかった為、戸惑い始めてしまう。

 

「ですが……その、恥ずかしながら長らく踊っていませんので、ご迷惑を」

「構いませんよ。リード致します」

「……………………で、では一曲だけ」

(相変わらず断りにくい……!)


 断る道を探す暇もなく、頷く選択肢しか必然的に残されていない。潔く諦めながら再び手を取ると、レイノルト様は柔らかな笑みを浮かべた。


 ホールの端で向かい合うと、丁度曲が始まりステップを踏み始める。


「まさかお会いできると思いませんでした」

「私も思いませんでした」

(集中しないと足踏んじゃう!)


「レディはどうしてこの会場に? セシティスタの王子方は別会場ですが」

「そちらには姉が参加していますので」

(話しかけないで下さい、踏んじゃいます!)


 本当に久しぶりすぎる踊りに内心はパニック状態だった。リードがあるとはいえ、滅多にしない足の動きに処理が追い付かない。踊ることは特段苦手でも嫌いでもないのだが、足元を見れない状態に恐怖しながらステップを踏み続けた。


「大丈夫ですよ、ついてきてください」

「わっ」


 不安が顔に出ていたのか、本格的にリードをし始めてくれる。不思議なことに体を任せているような感覚で、自分が上手になったかと錯覚するほどレイノルト様は上手だった。


「そのままです、お上手ですねレディ」

「あ、ありがとうございます」

(上手なのはレイノルト様ですよ、私は何もしてません……)


 完璧なリードのお陰で余裕が出始める。そのせいで色々考え始めてしまったのがよくなかった。


 思えば初めて身内以外の男性とここまで密着していることに気付くと、段々と内心のパニックが戻りながら顔も少しずつ赤くなっていった。


 それでも何とか踊り続けようと必死にステップを踏み続けていた。


(は、早く終わらないかな)


 ただ終了を願いながら身を任せていたが、その時間は永遠ほど長く感じたのだった。


 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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