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21.長女の呼び出し


 対応しようと立ち上がるラナを制して自らドアに向かう。思いもよらない訪問に驚きながらも冷静を装って扉を開けた。


「……お姉様、何か用でしょうか」

「えぇ」

「なんでしょう」

「ついて来なさい」

「……え?」

「後ろの侍女も一緒で構わないわ。早く」


 言いたいことだけ言うと、こちらの意思も聞かずに歩き出してしまう。一体何なんだと思いながら、ラナと顔を合わせると急ぎ後を追った。


 特段会話もなく、邸宅内を歩いていく。


 ついて来てくれたラナとお互い疑問を浮かべた表情になりながら、無言で歩き続ける。方向がある程度見えてきた時に目的地の目処が経った。それはベアトリスの部屋だった。


(部屋で何をするの……?)


 当たり障りなくベアトリスとは関わってきたつもりだ。間違ってもお互いの部屋を行き来するような親密な仲ではない。


 いつの間にかベアトリスの不興を買ってしまっただろうかと、ここ数日の出来事を考え出して呼吸が止まった。


(ヤバい、そう言えばお姉様に苦言を呈したんだったわ……!)


 代理出席を果たしたあの日、家に到着してすぐに顔を見せたかと思えば口から出たのは感謝ではなく文句だった。その際に嫌気がさした自分が八つ当たりした事実を思い出す。 

 

 八つ当たりは逃げるようにした為に反論する余地を与えなかった。恐らく連行されているのはあの日の謝罪を求めるためだろう。考えに整理がつくと、少しずつ落ち込み始めた。


(人生の危機を感じてたとは言え、投げやりにお姉様に突っかかるんじゃなかった)

 

 過ぎたことはどうしようもできないが、これからは今まで以上に接触時には警戒しようと心に決めた。


「入りなさい」

「失礼します」

「失礼します」


 予想通りベアトリスの部屋へ着くと、入室を促される。私の部屋に来たこともだが、私がベアトリスの部屋を訪れるのは恐らく初めてだ。


(記憶がないだけで、幼い頃に来た可能性は否定できないけど)


 慣れない状況に少しずつ緊張が現れ始める。部屋に入ると建国祭用の夜会ドレスを吟味していたのか、いくつものドレスが並べられていた。どれも華やかなものばかりで、お金がかかっていることは容易に想像できた。


「レティシア」

「はい」


 どう謝罪すれば満足してもらえるか、と頭を悩ませながら呼び掛けるベアトリスに反応した。


「ここから好きなドレスを選びなさい」

「……え?」

「…………」


 謝罪とはかけ離れた言葉を投げ掛けられたことで思考が止まる。後ろにいるラナも表情は見えないが、状況が全く理解できない雰囲気を感じる。


「それは、次回の夜会でお姉様がお召しになられるものを選べということでしょうか?」


 言いながら自分で不思議になってくる。それが仮に目的だったとして、何故私に聞くのか。普段と同じで侍女に聞けば済む話ではないのか。考えがまとまらないでいると、衝撃の意図を告げられた。


「違うわ、貴女が着るものよ」

「え、何故……」

「この間、代理でパーティーへ行ってくれたでしょう。急な話なのに引き受けてくれたことに感謝しようと思って、何が良いかと考えての行動よ。深い意味はないわ」


 呆然とドレスを眺める横でベアトリスはそれに気にすることなく続ける。


「レティシア、勘違いしないことね。私は貴女に尻拭いをさせただなんて不名誉を認めたくないだけよ」

「は、はぁ」

(いや、感謝する名目なら認めてるのでは……?)


 突然すぎる提案に動揺しか浮かばない。いくら感謝の気持ちとは言え、そんなに高価なものをもらうのは気が引ける。そんな私の気持ちなどお構い無しのように、ベアトリスは話を進めた。


「そういうわけだから。好きなだけ選びなさい」

「……いえ、さすがにお姉様のものをいただくわけには」

「何?心配しなくても未使用よ。新品同然だから安心なさい」

「そういう問題じゃ」

「好みに合わないのは重々承知よ」


 ベアトリスの、私が断るわけがないという揺るぎない考えが原因で言いたいことが伝えられない。


 どう断ればベアトリスの失礼に当たらないだろうと思索する。沈黙が流れたと思えば、再びとんでもないことを言い出した。


「気に入ったならば迷う必要などないわ。どうせ私は着ませんもの。全部レティシアが持っていきなさい。貴女達、ここに出してあるドレスをレティシアの部屋へ運んで」

「「かしこまりました」」

「お、お待ちくださいお姉様!」

(誰もそんなこと言ってない!!) 


 厄介な方向に事を運ばれそうになり、慌てて声をあげる。一着貰うだけでも躊躇しているというのに、全てのドレスが部屋に運ばれた日には動揺だけでは終わらない。


「なにかしら、レティシア」


 怪訝と不安が混ざった視線を向けられるが、私は自分の心を落ち着かせながらベアトリスの目を見た。


「全部だなんて恐れ多い。窓側にあります三着のみありがたく頂戴致しますわ。お姉様のご配慮痛み入ります。大切に使わせていただきますね。後でその三着だけ私の部屋に運んでいただければ幸いですわ。では、これにて失礼致しますねお姉様」


「でも」


「それに残りのドレスはお姉様にこそよく似合うドレスだと思います。私よりもお姉様に着られた方がドレスも喜ぶのではないでしょうか」


「そ、そう」


 捲し立てるように早口で言いきると、笑顔で「それではごきげんよう」と告げる。そして急ぎ部屋を後にすると、自室へと逃げ帰るように戻った。


「お、お嬢様……早いです」

「ごめんねラナ。とにかくあの場から逃げないと、全部のドレスを厚意で渡される気がして」

「いきなりすぎて思考がようやく今追い付きましたが……いきなりどうされたのでしょう、ベアトリスお嬢様は」

「わからないけど……」


 どういう風の吹きまわしかは皆目検討もつかないが、初めて見るベアトリスの一面に触れた気がした。



 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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