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213.消え去る不安


 その後も、自分に関して間違った話が耳に届くたびに訂正をさせてもらった。小規模なガーデンパーティーなので、回りきるのは難しいことではなかった。


(ふぅ……無事終われた、かな?)


 見渡す限り、ほとんど全員に声をかけたと思う。ということは、それだけルウェル嬢は多くの人に言って回ったということになる。


(……自分の非を認めないだけじゃなく、嘘をついて広めるられるのは……きっと、自分の方が人望が高いと踏んでの行いよね)


 残念なことに、帝国に来て日が浅い私にはルウェル嬢とは比べられないほど人脈に差がある。それを私も理解しているが、覆せないと泣き寝入りは絶対にしない。


(……何年にも渡って植え付けられた悪評に比べれば、どうってことないはず)


 そう自分に自信をつけていると、背後から優しい声色が聞こえた。


「レティシア様」

「シエナ様」

「楽しんでらっしゃいますか?」

「……もちろんです」


 そう穏やかにシエナ様から尋ねられた。


 楽しめているかは微妙な位置だったが、訂正をして回るという目的は達成していたので心は軽かった。


「あの。よろしければ、ルウェル嬢のお茶会で何があったか教えていただいても?」

「お聞きになったのですか?」

「えぇ、少々偏った情報を耳にしまして。ですがあまり信じようとは思っていないので、是非レティシア様からお聞きしたいなと」

「あ、ありがとうございます……!」


 恐らくシエナ様は、今日子爵令嬢達が話していたような情報を既に耳にしているのだと思う。けれども彼女は、それを鵜呑みにせずに、広めることもせずに、確認をしに来てくれた。


(凄く思慮深い方だわ……)


 物腰柔らかな姿勢で、尋ねてくれる様子は本当に安心することができた。私は他の人に訂正したように、シエナ様にも真実だけを伝えた。


「……なるほど。どうやらルウェル様は最初で最後の機会を台無しにしたというわけですね」

「というと……?」

「今回の出来事を広める時、ルウェル様は、レティシア様のことを一つも下げてはいけませんでした。というより、そもそも広めるべきではありませんでしたね」


 ふうっとため息をつくと、そのままシエナ様は続けた。


「それをしてしまうとレティシア様の言い分である“格下扱いされた”が必然的に正しくなってしまいますからね。ですから、ルウェル様が取るべき行動は反省一択でした」

「あ……」


 ルウェル嬢が私の行為を非礼と呼ぶのは勝手だが、仮にも上の立場になる私への態度は言葉の端々から感じ取れることだろう。それに加え、非礼をされる前までの行動は誰が見ても私を格下扱いしてるのは明らかだったのだから。


 シエナ様は双方の言い分が違う時、まずはどちらも本当のことを言っていると仮定して話を聞くと言う。そして、そこからでた綻びが明らかに多い方が、作り話だと判断するのだという。


「入場のタイミングがおかしい、何一つ教えるべきことを教えてない。贈り物についても、ただルウェル様が無知であっただね。……どちらが真実かは明白ですね」

「……良かったです」


 シエナ様は、私の方を信じると言ってくれた。


「安心なさってください。ルウェル侯爵家につく方もいらっしゃるでしょうけど、それ以外のご令嬢方は思慮深い方も多くいらっしゃいます。事実にたどり着くのにそう時間はかかりませんよ」

「それを聞いて……凄く安心しました」


 自分の声が届くかという不安があったが、現にシエナ様には届いた。それだけで不安が薄まっていく。


「ルウェル様はあまりにもお粗末でしたね。レティシア様のことを侮りすぎだと思いますよ」

「まだこちらに来てから日が浅いので」

「まずはそれですよ。そこをわざと狙ってレティシア様を陥れようとした、というのは誰でもわかることです。全く品のない戦い方ですね」

「品のない……ふふっ、確かに」


 シエナ様のズバッと言う言葉には、背中を押してくれる力があった。そのおかげで肩の力が抜けていく。


「わざわざ自ら小物だと言っているものですからね」

「……確かにそうですね」

「だから本当に、お気になさらないでくださいね」

「そうしようと思います」


 シエナ様の方が年齢が上だからか、リリアンヌに似た感覚を覚えた。言葉一つ一つに重みがあって安心感があった。


「シエナ様。もし、お時間よろしければ、また後でお話を」

「今で構いませんわよ?」

「えっ、でも他の方が」

「皆様何かお話しに夢中みたいなんです」

「でも視線を感じますが……シエナ様待ちでは」


 そう言いながら周囲を見渡せば、ご令嬢方はさっと視線をそらした。


「お気になさらず。先程まで話していたので大丈夫ですよ」

「そう、なんですか?」

「えぇ。是非座ってお話を」

「で、では……ありがとうございます」


 何度も大丈夫だと言われると、それを受け入れざるをえない。シエナ様に案内された場所に座ろうとする。


「これは……レティシア様の親衛隊ができるまで、時間はかからなさそうですねぇ」

「どうしました、シエナ様」

「いえ、なんでもありませんわ」


 なにか聞こえた気がして聞き返せば、優雅な笑みで返された。

 二人並んで着席すると、本格的に会話を始めることになるのだった。


 


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