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198.お茶会の始まり


 お茶会当日。


 ルウェル侯爵家からの招待状を手にした私は、シェイラとエリンにこれでもかという程入念に着飾られて出発した。


「……ここがルウェル侯爵家」


 大公城からは馬車で一時間ほど離れた場所にある侯爵は、なかなかにご立派なお屋敷だった。

 一人馬車の中から屋敷を観察しては呟く。


「……エルノーチェ公爵家(うち)の方が大きいと思う」


 格下に見られたことを意識しているかは定かではないが、パッと見た感想はそれくらいだった。


 既にいくつかの馬車が到着しており、婚約披露会で目にしたご令嬢達が楽しそうに屋敷に入っていく姿が見えた。


(……でも心なしか暗い表情の方もいる気がする)


 ルウェル嬢の性格を思い出しては、その表情の要因をどことなく察した。


 馬車から下りると、歩き方一つに気を配りながら中へと向かう。

 屋敷の中に入ると会場に案内され、扉を開けば既に何人かのご令嬢が席に座っていた。


 前を歩くご令嬢方に隠れるようにそっと入室したので、視線を集めることはなかった。


(まだそこまで顔が認知されてないから、注目されなくて済んだかも)


 いくつか用意された丸型のテーブルに、それぞれ仲が良いとみられるご令嬢同士が席に着いていた。


(……どうしよう。思えばこういったお茶会は初めてだから、どこに座ればいいかわからない)


 恐らく派閥もしくは親しい仲で座っているとは思うのだが、だからこそ座る場所がわからなかった。

 タイミングの問題でか、ルウェル嬢の姿も見つからない。


(……困ったわね)


 どこのテーブルも空席状況は微妙なものだが、見渡してみると一つのテーブルだけがら空きの場所があった。


 そこは一人のご令嬢のみが座っていて、まるで彼女をさけるように人が寄り付いていなかった。 


(うん、あそこに行こう)


 少し奥まった場所ではあるものの、気配を消していけば注目を浴びることはなかった。


 目当てのテーブルに近付くと、先客であるご令嬢の近くに座るか悩んだ。席を空けて座ることがマナーでもないため、親しくなろうと思って、彼女の隣に向かった。


「お隣、大丈夫ですか?」

「……」


 椅子に手をかけながら尋ねてみれば、ご令嬢は驚いた表情をしてこちらを見上げていた。


(……凄い美人さんだわ。披露会で見たような、気がする)


 整った顔立ちは美女と言って過言ではなく、可愛らしいというよりは美しいお顔だった。

 

 シェイラとエリンからもらった要注意人物リストには、恐らく載っていなかった気がする。


「……」

「失礼しますね」


 驚きすぎているからか、彼女からなかなか返答はなかった。

 着席すると、目線を下へ落としたご令嬢からボソリと呟かれた。


「他の……席に行くことをおすすめいたします」

「……あ。こちらはもしかしてどなたかのお席ですか?」

「いえ、違いますが……」

「それなら良かった」

「……」


 席を移動する気はなかったので居座れば、隣から物凄い視線を向けられた。


「……座らない方がよいご事情はわかりませんが、ご挨拶をしても?」

「え? ……え、えぇ」

「先日お会いしたとは思いますが改めて。エルノーチェ公爵家、レティシアにございます。よろしくお願いします」

「レティシア……エルノーチェ……」


 戸惑うご令嬢は、名前を復唱するように呟いた。そして何かに気が付くと、すく様自己紹介を始めた。


「大変申し訳ありません。身分の低い私から挨拶をするべきでした。シルフォン侯爵家長女グレースにございます」

「シルフォン嬢、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。エルノーチェ様、先日はご招待いただきありがとうございました」


 受けた印象はとても丁寧な所作と口調の常識的な人。ただあまり愛嬌を見せるタイプではないのか、表情が真顔から崩れることはなかった。


「……エルノーチェ様。お隣に座っていただいて大変光栄なのですが、お席のご移動推奨いたします」

「……理由を伺っても?」

「私は……あまり評判がよくありませんので。エルノーチェ様まで不名誉を被る可能性がございます」

「……」


 何故だろうか。

 その言葉を聞いただけで、彼女への親近感が勝手に浮かび上がってしまった。


「ですので、お席は」

「いえ、ここにいたします」

「えっ……」

「ご存じの通り、私は王国から来た身ですから。シルフォン嬢の評判? とやらは知らないのです。ですので気にしません」

「!」


 そこで初めてシルフォン嬢は表情を崩した。衝撃を隠せない表情だが、慌ててもとに戻していた。


「……それでも」


 きゅっと手を握りしめて、もう一度同じ言葉を吐き出そうとしたその時。


「皆様! 三大公爵家のご登場ですわよ!」

「まぁ! 揃うだなんて!!」

「ご起立なさって! ご挨拶しないと!」


 突然周囲のご令嬢方の歓声に近い声が響くと、急いで彼女達は立ち上がって扉の方に視線を向けた。


 その状況に戸惑っている間にも、扉が開いた。そこには三人のご令嬢と、ルウェル嬢が立っていたのだった。



 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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