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190.賭ける思い


 婚約披露会の準備を進めていると、姉達から手紙が届いた。封筒をくれたエリンは疑問を浮かべた顔で尋ねた。


「凄い量ですね……何か入ってるんですかね」

「ううん……感触的に、手紙だけだと思う」


 エリンが不思議に思うのも無理ない。というのも、姉達から送られてきた手紙の封筒は普通の倍くらいの厚みがあったのだ。一体何枚書いたのか想像できないほど、その量の多さは圧倒的だった。


「皆様お嬢様のことが大切なんですね」

「……末っ子だからかも」

「なるほど」


 ベアトリス、カルセイン、リリアンヌ。彼女達にとっては、私はいつまでも妹だから。送り出したとはいえ、心情的に不安になるのは当然のことだろう。


 手紙を整理していると、ラナの分もあることに気が付いた。


(……ラナにとっても、私は心配の対象よね)


 彼女達の変わらない部分を感じながら、手紙に視線を落とした。


「ちなみにですが、どなたかいらっしゃるのでしょうか?」


 エリンが封を切るための道具を渡しながら聞いた。


「ううん。向こうでは小さな披露会をしたようなものだから」

「そうだったんですね! では披露会は二回目ですかね」

「ううん。本当に一瞬だったから、実質初めてになるかな」


 一度目は戦場に近く披露も一瞬だったため、本格的な披露会はこれが初めてになる。


 そんな話を、すっかり打ち解けたエリンとしていた。


 二人の侍女は積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれるので、沈黙ができることはなかった。気遣いはもちろん、しっかりと尊重してくれる辺り、本当にありがたい存在だった。


 シェイラはというと、今回招待に応じてくれた貴族を名簿にしたものをレイノルト様からもらいにいってくれていた。


「お嬢様、戻りました」

「おかえりなさい、シェイラ」

「おかえりなさい!」


 封を切る直前で、シェイラが戻ってくるのを確認すると、一度その道具と手紙は机に置いた。


 シェイラから名簿を受け取ると、確認を始める。


 レイノルト様によって丁寧にまとめられた名簿は、とてもみやすかった。セシティスタ王国で事前に学んできた甲斐があってか、ほとんどが目にしたことのある名前だった。


(あっ、リトスさんも参加するのね)


 考えてみれば当然かと思いながら、知っている人物の出現に笑みがこぼれた。


 一通り確認し終えると、シェイラがもうひとつ名簿を渡してくれた。


「お嬢様。僭越ながらですが、こちらも」

「これは……?」

「私達侍女が作った、要注意人物リストにございます」

「そんな凄いものを……!?」


 驚きながら受け取ると、主にご令嬢やご婦人方に関する詳細な情報が書かれていた。


「……万が一ではありますが、お嬢様が他国から来たというだけで軽く見られる可能性がございます。それに」

「……それに?」

「大公殿下は、ご令嬢方から一定の人気があった御方ですので、悪意を向けてくるご令嬢がいるかと」


 シェイラの言葉には説得力があり、レイノルト様が人気であることは容易に想像できた。


「……頑張らないとね」


 ボソリと呟いた思いには、強い意思があった。


(もう二度と、軽んじられない為に)


 セシティスタ王国で生まれた悪評は、自分がなにもしないが故に作られてしまったものだった。


 フィルナリア帝国では、決して同じようなことはあってはならない。もちろん、自分の立場に責任を持つことも重要だと、胸に刻んでいた。


「それにしても……こんなに立派なものをありがとう。……何かお礼をしないと」

「お嬢様は大公城のもう一人の主人です。つまり、我らの主でもあるということ。その主のためにできることなら、何でもいたします」

「私達侍女はお嬢様をお慕いしてるんです! 何なりとお申し付けくださいね!!」

「えっ……そ、そうなの?」


 初めて聞く言葉に、驚きを隠せず戸惑いながら声を出してしまった。


 どうやら二人曰く、私の印象は侍女だけでなく城内に勤める者達からは好評のようだった。


 その話が嬉しく、安心へと強く繋がると、できるという思いが浮かんできた。


「ありがとう、本当に。皆の気持ちを受け取らせてもらうわ。……これでたくさん勉強するから」

「足りなければいつでも仰ってください。疑問点もあれば。何でもお聞きしてくださいませ」

「私もできることを頑張ります!」


 二人の力強い眼差しに安堵の笑みがこぼれた。


 思いを受け取ると、二人に一つだけ気になったことを尋ねた。


「……ちなみに、なのだけど」

「はい」

「はいっ」

「……レイノルト様は、どれほど人気だったのかなって……」


 少し恥ずかしくなりながら聞けば、微笑ましい笑みを浮かべながら、シェイラが答えてくれた。


「ご安心ください。かつては絶大な人気がございましたが、大公殿下にその気がないことがわかると、諦めた方がほとんどですから」

「そ、そうなの……!」

「はい。今残っている方は少ないは少ない、のですが」

「うん」

「曲者が多いかと」

「……簡単にはいかなさそうね」


 シェイラと目を合わせながら、納得したように頷いた。


 今残るご令嬢方は、レイノルト様が明らかな態度を取っている、にもかかわらず彼を追っているということだった。


 これは想像以上に大変な戦いになるかもしれない。そう思いながらも、当日までの準備を続けるのだった。



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