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179.思い出を語って




 馬車に揺られながらも、レイノルト様はずっと気遣い続けてくれた。


「レティシア、疲れたらすぐに言ってくださいね」

「ありがとうございます」

「長旅になりますから、辛かったらいつでも休憩を取りますので」

「大丈夫ですよ!」

(それよりも、早くフィルナリア帝国に向かいたいです!)


 心の声も活用しながら、本心であることを表現するように接した。表情や仕草も大切にしながら告げた。


「……別れは辛くありませんでしたか?」

「そうですね……たくさん、思い出の品を持たせてもらったので」

「思いでの品を」

「はい。お姉様方やお兄様達からはもちろん、屋敷でお世話になった侍女にまでもらいました。だから寂しくならないと思います」

「レティシアの周りには、素敵な人で溢れているんですね」

「そうですね。自慢できることだと思います」


 あの交換会と絵を描いてもらった後、実はラナからもたくさんの物をもらっていた。本人は交換が絶対だと言うので、喜んで交換すれば、想像以上に思い出の品が出てきて驚いたのだった。


「是非向こうに着いたら、私にも見せてください」

「もちろんです」


 元気のない姿を予想していたであろうレイノルト様からすれば、いつも通りに喋る私の様子を見て、とても安心した様子だった。


「レイノルト様、セシティスタ王国での旅はいかがでしたか?」

「……そうですね」


 今聞くのが一番良さそうな話題を振ってみた。気になっていたこともあり、興味ありげな表情を全面に出した。


「まずはレティシアに出会えたことが、何にも変えられない宝物のような出来事です」

「……私も、レイノルト様に出会えて本当に良かったです」

「レティシアのご家族もそうですし、交渉先など、たくさんの方々と出会えたことがまず一つの大きな収穫ですね」

「人脈は宝ですものね」

「はい」


 自分の家族のことを大切に思ってくれる言葉に、自然と笑みがこぼれた。笑みがこぼれるようになったのは、レイノルト様のおかげ。


「……私がこうして家族を誇れるのも、あの時レイノルト様に話を聞いていただいて、背中を押してもらえたからです。改めて感謝の気持ちを。本当にありがとうございます」

「愛する人の力になるのは当然のことですから」

「……その時から、想っていてくださったのですか?」

「実は、そうですね。私がレティシアに惹かれたのは出会いからですから」

「というと……えっ、あの夜会?」

「はい」

「ま、待ってください! 私なにか不躾なことを思ってませんでしたか!?」


 感動的な話になるかと思いきや、まさかの方向に話題が向くと、自分の失態があるのではないかと不安が沸き起こった。


「第一王子達に対する反論は、聞いていてとても興味深かったですよ」

「!」


 まさかあの独り言の毒づきを聞かれていたとは。心の中で吐き捨てていたのだから、後悔するようなことは訪れないという計算は大きく外れてしまった。


「わ、忘れてください。あのようか格好悪い姿……」


 捉え方によっては、心だけでしか反論できない小心者だ。面と向かって言えない人と思われてしまわないか心配になった。


「格好悪いだなんてとんでもない。あの心の声を聞いたから、レティシアと話したくなったんです。あのように、家族や自国の王子に対して心の中だとしても、反論できる人は少ないと思いますよ」

「そ、そうでしょうか」

「それに、少なからずエドモンド殿下はご令嬢方に人気で顔も整っています。そんな相手に容赦なく返す言葉を思い付けるのは、魅力でしかありませんでしたから」

「あ、ありがとうございます」


 思わぬ褒め言葉に照れながらも、一つ訂正したいことが合ったので食い気味に否定した。


「でも、私にとってはレイノルト様のお顔が一番です。中身も含め総合したら、レイノルト様より素敵な男性はどこを探してもいませんよ?」

「レティシアにそう言っていただけると自信になります」

「本当に、素敵です」

「レティシアも」

「ということは、私達とてもお似合いですね。素敵な者同士」

「確かにそうですね」


 少しふざけたように言う言葉も、レイノルト様は楽しそうに拾ってくれる。これ以上ない相性の良さを感じながら、会話を続けた。


「あと良かったことと言えば、当初の予定通り緑茶を少しでも広められたことですかね。まだまだ足りませんが、セシティスタ王国の皆様が存在を知る機会を掴むことはできたと思います」

「その件は、私も今後力を入れたいです。少しでもお役に立ちたいので」

「一緒に頑張りましょう」


 まだ見ぬ帝国の姿を想像しながら、胸をときめかせた。馬車から見える景色はいつの間にか知らないものになっており、それがセシティスタ王国との本当の別れを意味していた。


 これから待ち受ける新たな困難が合ったとしても、目の前に座るレイノルト様がいればなにも怖くないと思えた。


 高まる期待を胸に膨らませながら、もう一度窓の外に目を向けるのだった。

 


 ここまでご覧いただき誠にありがとうございます!


 明日より帝国編が始まります。もしよろしければ、最後までお付き合いいただければと思いますので、よろしくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
コミカライズから続きが気になってきました!面白いです。 1章までの感想ですが、不思議なことが2つ。①賢王と言われるセシティスタ王国の王様が、なぜあんな王妃さまと結婚したのか。②王様はなぜあのポンコツ…
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