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172.語られる秘密




 庭園にある椅子に並んで座ると、レイノルト様の方を向いた。少しだけ緊張しながら見上げると、私よりも緊張した眼差しをしていた。


「……レティシア」

「はい」

「……この前の、馬車での話です」

「最後にお会いした日ですよね」

「はい。……あの時……私が、失言しましたよね」

「失言……」

「変だなとは、思いませんでしたか」

「その、私が自分の知らぬ間に口に出していたのかなと」


 そう言うと、泣き出しそうな笑みを浮かべられた。


「……いえ。貴女は声には出していませんでした」

「…………」

「心の中で、考えられたでしょう?」

「……恐らく、そうだと思います」


 影のある暗い笑みは何故か胸を締め付けられた。痛くて、辛い。そんな思いが自分の中を駆け巡った。


「レティシア、私は……」

「……はい」


 苦しげな表情をするレイノルト様を見て、体が自然と動く。


「!」

「……大丈夫です。それはきっと、悪いことではありません」

「レティシア……」

「ですからどうか、自信を持ってください」


 レイノルト様が力一杯握りしめた手を両手で取って、包み込んだ。


 彼が言いたいことが何だかわかるような、わからないような気がしていた。でも、確実なのは言いづらいことだということ。それを責めるつもりは無いという思いだけを先に伝えたくて、包んだ手に力を込めた。


「……私が、貴女の心を読めると言っても、ですか?」

「え……?」


 ぽとっと溢れた言葉は、すぐに理解をできるものではなかった。悲しげな声色で、意を決したのか、全てを語り始めた。


「レティシア。私は貴女の心の中がわかります。貴女だけではありません。周囲の……視界に入る人の心の声が聞こえます」

「……」

(心の声が……聞こえる?)

「はい。聞こえてます」

「!」

「貴女の声も、他の人の声も。この力は生まれつきで……どうしようもない能力です」

「……」

(……)


 衝撃の強い告白に驚きが隠せず、手に強めた力は少しずつ弱まってしまった。自然とレイノルト様は目線をそらす。そして衝撃のせいか、頭がぼやりとして思わず本心が口から出た。


「…………気味が悪いでしょう」

「……異世界みたい」

「……え?」

「……あ」

(まずい、やらかしたわ)


 自分の出した言葉に気が付くと同時に、レイノルト様の頭上に疑問符が浮かぶ。その様子を見て、発言に焦りが生まれる。


「異世界……?」

「異世界……ですね」

「一体どういう」

「えぇと」

(どうしよう………………いや、待って。隠す必要なくないか、これ)


 誤魔化す理由が見当たらなかった私は、意を決して、今度は私から秘密を伝えた。


「レイノルト様」

「は、はい」

「実は、私は転生者です」

「転生……者?」

「はい。ここではない世界で暮らしていた前世の記憶があります」

「前世の記憶」


 自分の話をしていると、レイノルト様が気に病んで言葉に詰まっていた理由がわかってきた。泣きそうな笑顔の解決策を見つけた私は、畳み掛けることにした。


「前世の記憶です。気味が悪いでしょう?」

「そ、そんなことは決して」

「本当ですか? 二度生きてるようなもので、中身の年齢は足せばレイノルト様よりもはるかに上になってしまいますよ? いわゆる、おばさまです」

「お、おば」

「そんな歳上なんですよ?」

「か、関係ありません。レティシアはレティシアです」


 私の方が突然すぎる話で、かなり卑怯だとは思うが、その言葉を聞けると、満面の笑みを咲かせながら真っ直ぐと視線を合わせて告げた。


「私もですよ。レイノルト様がどんな能力を持っていようと、レイノルト様はレイノルト様です」

「あ……」

「確かに、心が読めることは特殊ですが」

「っ」

「稀少で貴重で、カッコいいですね」

「……気味が悪くないのですか」

「全然。少し恥ずかしいですけど、気味が悪いなんて思いませんよ」


 本心だと伝わるように、丁寧に言葉を選んでいく。


「でも……」

「少なくとも、レイノルト様はそのお力で苦労なされたのではないですか? 私に同じ能力が無いから全てを理解することはできませんが、他の人に見えないものが見えてしまうのは、良いことばかりではないと思ったので」

「……」

「その能力を恨まず、共存して生きているお姿だけでも尊敬の対象です。気味が悪いだなんて、貴方の努力を踏みにじるようなことは思いません。絶対に」

「!」

(本心ですからね!!)

 

 目を見開かれる姿を確認して、心の中でも重ねるように告げておく。


「……尊敬、努力」

「はい」

「……」

「わっ」


 悲しげな瞳に喜びが入れ替わると、力強く引き寄せられた。


「レティシア……貴女という人は、どうしてこんなにも愛おしいんですか。私を、突き放さないのですか」

「突き放す理由なんて無いですよ。だってレイノルト様をを愛してるじゃないですか」

「……私もです。一生離しません。レティシア、貴女を必ず守り抜いて……誰よりも幸せにします」

「……では私はレイノルト様を世界で一番幸せにします。嫌と言われるほど隣に居続けますね」

「……約束ですよ?」

「もちろん。約束です」


 ぎゅっと抱き締められると、それに応えるように私も力を込めるのだった。





 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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