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159.襲いかかる危険




 窓の外、その先に見えたのは花火そのものだった。


 反射的に窓に近付くと声を上げた。


「ラナ!!!!」

「っ!!」


 そこにはラナが見知らぬ男に連れていかれる姿があった。瞬時に自室を飛び出て、玄関に急ぐ。待機していたもう一人の護衛は突然のことに驚くものの、モルトン卿について来ていた。


 体当たりするように扉を押し開けると、ラナを乗せた馬車は目の前で走り去っていった。モルトン卿が急ぎ追いかけるも間に合いそうにない。


「ラナっ!!」


 叫び声は届くことなく消えた。家を警備していた他の騎士達がその声を聞いて集まってきた。


「お嬢様、どうされました!」

「何事ですか!?」


 その声など耳に届かず、ただ馬車のいた場所を見続けていた。呟きがむなしく響く。


「……ラナ」


 怒りや悔しさに近い感情、でも表現しがたいものに襲われて唇を噛み締めた。


「……お嬢様。門の前にこちらが」

「……花火」

(発煙筒、間違いなくラナが作動させたんだわ)


 戻ってきたモルトン卿は、玄関に落ちていた発煙筒を手渡した。


「侍女が連れ去られた」

「本当ですか、隊長。でもどうして侍女を?」

「こんなにわかりやすく隠しもしない連れ去りがあるんですか」

「一体何が起こって」


 私が発煙筒を見つめる間、モルトン卿が他の騎士に状況を説明した。疑問しか残らない状況に、それぞれ声をあげる騎士達。


「……隠す必要がないから、堂々と連れ去ったのでしょう」

「「「……」」」

「もしやお嬢様。犯行相手にお心当たりが?」

「モルトン卿が先程まで話していた人物かと」

「なるほど……まさかここまで早く行動に移すとは。迂闊でした。大変申し訳ありません」

「いえ、私も……」


 私が、気を抜いていたから。


 既視感を感じたのに、専属護衛がついたから強い危険視をしなかった。疑問で終わらせてしまった。何も考えなかったから。


 迫る強い後悔に押し潰されそうになるも、今はとにかくラナを助けることだけを考えなくてはと思考を切り替える。


 取り敢えず一度、モルトン卿を除く騎士達が他に仲間が潜んでいないか急ぎ確認をすることになった。


 その間、モルトン卿と状況を整理する。


「お嬢様、お心当たりのある相手とは」

「……他国の侯爵だと思います。ですが何故狙ったのか。目的や意図が一つもわからずに困惑しています。接点は無いような人物だったので」

「その侯爵とですか」

「はい」


 会ったのはたったの二回で、間違っても親しいといえる間柄ではなかった。


「侯爵よりも、侯爵の弟君と親交がありました。弟さんは私の婚約者の友人なので」

「なるほど」

「……ですので大事には」

「わかりました」


 対応を極秘にする方向を伝える。門の方を見て考え込むモルトン卿の隣で自分でも考える。


 オーレイ侯爵に他にされたことを考えてみると、虚言をつかれたということだ。そこにさえ、何の意図があったかわかっていなかった為、今回の行動は何一つ理解ができない。


「お嬢様、侯爵の弟君の親交に何かあるのかもしれません」

「弟君との親交、ですか?」

「例えばの話ですが、兄弟仲が不仲で陥れる為とか」

「……弟君は侯爵にならずに商人になっています。恐らく籍を抜いて。それでも不仲は考えられるのでしょうか」

「人の感情とは難しいものですから、どれだけ尽くしても無意味だということもあります。あくまで推測ですが、お嬢様を利用して弟君に何かをしたい可能性が高いです。そしてそれは、連れ去られた今の状況を考えるに良いものとは言えないでしょう」

「……」


 モルトン卿の話はすぐに納得できた。そこに虚言に対する答えも含まれていた気がするからだ。


「お嬢様、隊長!」

「何があった」

「恐らく侍女がいた場所にこれが」

「手紙?」


 調査から何かを発見した騎士から封筒を受け取ると、急ぎ中を確認する。


「……貴女と交渉する場を設けさせてください。時刻は今日の夜。場所は……これは地方にある宿ですね」

「交渉……」

「昨日の下見と言い、時間指定といい……随分相手は急いでいるようですね。その上かなり計画的のようです」

「私達も急がないと。ラナが危ない」

「この指定場所に行かれるつもりですか」

「……」


 焦りのまま考えずに声を出せば、それはあまりにも無謀だとモルトン卿から指摘される。


「許可しかねます。あまりに危険です。相手の目的も、人数も不明です。お嬢様の安全も保障できません」

「では隊長。国王陛下にかけあいますか?」

「いや、駄目だ。今回は関係が複雑だから、大事にできない」

「そうなのですか……」


 他の騎士も解決策を探そうと考えるものの、すぐに良いものが見つからない。


「他国の侯爵が首謀なら、セシティスタ王国に協力者でもいるのでしょうか」

「協力者……?」

「はい。いくら侯爵とはいえ他国に多くの人数を連れては来れないはず。それにこのような真似をするなら、現地であるセシティスタの人間を使うはずです」

「……」

「仲介者がいてもおかしくありません」

「仲介者……」


 モルトン卿の言葉を聞きながら、不意に握りしめていた掌を開いた。発煙筒を見つめると何かを思い出すように気がついた。


「お嬢様!! 何がありました!?」


 再び反射的に自室に向かうも、その動きに驚くモルトン卿の声が響いていた。



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