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157.仮の専属護衛




 オーレイ侯爵が公爵家を去ると、ベアトリスに呼ばれた私は騎士との顔合わせをすることになった。どことなく緊張しながら部屋へと向かう。


 ベアトリスから派遣された騎士の内、一名を専属護衛としてつけてもらうことにした。紹介を受けると、部屋を移してその人と挨拶をすることにした。


「お初におめにかかります。王国騎士団第三隊隊長ルーク・モルトンです。よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いしますモルトン様」

「卿、で構いません」

「ては、モルトン卿とお呼びしますね」

「はい。お仕えすることになりましたので、私はお嬢様と呼ばせて頂きます」

「お願いします」


 モルトン家はセシティスタ王国侯爵家の一つ。貴族の騎士家として有名で、確かルーク氏は次男である。

 若くして隊長になった彼の実力は確かなもので、護衛になってくれるならとても心強い。だが同時に、そこまでの実力者が専属護衛についたことに少し引っ掛かっていた。


「私の他に第二隊隊長が、ベアトリス様が専属護衛としてつかれています。他に第二隊と第三隊から三人ずつ、公爵家内の警備として派遣されています。状況を見て、人数の調整は行われるようです」

「わかりました」


 王国騎士団なだけあって、彼らの服装はとても目立つものだった。華やかな仕様ではないが、地味すぎる色合いではない。ただ、王家の紋章が輝いていた。


「それにしても、騎士団としては大丈夫なのですか? 重要な人物を私達の護衛にあてて」

「全く問題ありません。最初は騎士団長や第一隊隊長が担当する予定だったほど、この任務は重要なものなので」

「えっ」

「想像つきませんか?」

「はい、あまり」

「エルノーチェ公爵家についての問題は明らかとなっており、内部事情もあらかたカルセインより話を聞いて理解しております。その上で、ご令嬢方がいかに重要人物かを判断しておりますので」

「……重要、人物」


 護衛の話が出て、そして自分につくまでは、何となくで話を聞いていた所があった。だが、改めて考えた時自分は公爵令嬢でありその上帝国に嫁ぐ身なのだ。


(分不相応など、思う必要は全くないわ)


 自身にある肩書きを改めて考えると、背筋を伸ばして笑みを浮かべた。


「失言でした。モルトン卿ほどの方に護衛をしていただけること、誠に光栄にございます。改めて、感謝を」

(専属護衛がつくことに、少し萎縮してたのかもしれない。……こんな素晴らしい方をつけていただいたのだから、萎縮するのではなく、胸を張り続けられるように頑張らないと)


 気を取り直して気合いを入れると、モルトン卿から素直な声がこぼれた。


「……実は、今回の専属護衛は自ら志願したのです」

「モルトン卿が、ですか?」

「はい。フェルクス大公子とリリアンヌ様の披露会で見た貴女の毅然とした態度に感銘を受けまして。今まで積み重なった、普通なら諦めそうなことに立ち向かう姿に格好いいと思ったのです」

「あ……見てらしたのですね」


 褒め言葉ではあるが、いざ言われてみると少し恥ずかしかった。


「私は剣一筋で、社交界のことは詳しくありませんが、貴女の姿は素敵でした。あぁ、ご安心下さい。恋情とは全く違います。騎士が受ける感銘ですので、剣を捧げたいという感情が正しい意味です」

「そのように思っていただけるのは、とても光栄です」

「私も、お嬢様のような高潔な方の護衛ができて光栄にございます」


 お互いに柔らかな笑みで小さく頭を下げ合うと、いつの間にか緊張はすっかりとけていた。


 話題は他愛もないものへと変化していった。


「モルトン卿は兄と親交があるのですか?」

「そうですね。カルセインは後輩です。私はこう見えて二十六歳でして」

「お若く見えます」

「ありがとうございます」


 話を聞くと、モルトン卿はカルセインに剣の扱い方を丁寧に教えた先輩らしい。私が想像しているよりも、濃い親交に少しだけ驚いた。


「カルセインよりお嬢様の話はよく聞いております」

「……な、何を聞いて?」

「自慢の妹だと。今回の件を頼まれる際も、誇らしそうに話していました」 

「そうなのですか……」


 以前の兄では考えられなかった様子が、今ではいとも簡単に頭の中に思い浮かぶ。カルセインが自分の事を大切に思ってくれる事を知って、改めて胸が暖かくなった。


「モルトン卿、改めてよろしくお願いします」

「はい。必ず護衛としてお守りいたします」


 仮となる護衛にも関わらず、任務を果たそうとする強い意欲が見えたことに嬉しく思った。


 その後、専属侍女であるラナの事を紹介して、家内の案内もしたのだった。


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