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123.悪評の影響




 予想もしなかった夫人の言葉には、私でさえドキリとしてしまった。驚いたのはベアトリスとカルセインも同じ様子だった。

 何よりも驚いているのはキャサリン本人だったのは間違いない。


(今まで夫人のような反応をされたことは無かったと思うから、何を言われたのか理解するのに時間がかかりそう……)


 遅れてキャサリンの方に目線を向ければ、表情管理が上手くできてない姿を捉えることができた。隣に立つ父も珍しく若干の動揺をしている。

 数秒の沈黙の後、夫人はキャサリンの反応を気にすることなく発言を続けた。


「貴女の言う問題が何かはわからないけど、少なくとも貴女の妹はこのパーティーにおけるマナーをきちんと守っているわ。貴女と比べてね」

「……どういう、意味でしょうか」


 キャサリンの表情はあくまでも冷静を保っているものの、瞳は動揺を物語っていた。彼女が今まで社交界で過ごしてきて、恐らく一度も言われたことはないであろう言葉のように感じる。


 そうでなければ、今のような返答はしないから。


 微妙な空気が流れるなか、夫人はそのまま話を父に振った。


「……公爵。貴方は父として思うことはないのですか」

「大変申し訳ありませんが、夫人が何を仰りたいのか」

「そうですか、残念です。キャサリン嬢の問いに答えるべきは親である貴方でしたのに」

「……っ」

「キャサリン嬢、私の言葉の意味は淑女ならわかると思います礼儀作法をしっかりと学んだ淑女なら。貴女の自身の為にも、ここから先は口を閉じます。どうかご自身で気付いてくれると嬉しいわ」

「……お言葉、ありがたく胸にとどめますわ」


 最初から最後まで夫人に主導権がある挨拶だった。もちろん、初対面の相手に対して苦言を呈することもマナーとして正しくはない。


(でも……これは苦言というよりも、主役の母としての怒りが含まれている気がする)


 そう思っている間に挨拶は終わり、父とキャサリンはその場を後にしていた。背中を見送っていると、ベアトリスに尋ねられる。


「レティシア。ちなみに夫人の意図はわかったかしら」

「先ほど仰っていた振る舞いは入ると思います。もう一つは、もしかして見た目ですか?」

「えぇ、私もそうだと思うわ」


 いまいちピンと来ていないカルセインに、詳細を伝えた。


「私はドレスの知識は浅いのですが、今回の披露会は明確に主役が存在するパーティーですよね。ドレス単体で見ればそこまで特出して派手ではありませんが、イヤリングや髪飾り等の装飾品を総じて見れば、少し目立ちすぎかと思います」

「……確かに。主役より目立とうとするのはパーティーマナーとして反してるから……あぁ、なるほど」


 カルセインがピンと来た様子に小さく安心する。


「王子妃として、淑女として努力しようもはしたんでしょうね。そもそも普段からの行いをいきなり変えるのは難しいから、そこまでは気が回らなかったみたいね」


 ベアトリス曰く、姉二人が悪評通りで過ごしていた派手な時代は、ドレスだけでなく装飾品にまでお金をかけていた。それを見て無意識にか、常識人を演じていたものの王子を射止める為に見た目にお金はかけていた。それが影響したと推測した。


 確かにキャサリンの価値観は、常識とは離れているように感じて、ベアトリスの考えに納得した。


「それなら納得です」

「……確かにあの頃のお姉様方は、本当に派手というか、悪評に忠実でしたよね」

「あの頃の行動が功を奏したわね」


 ふふん、と自慢げにする姿こそ可愛らしかった。


 そうこうしていると、本日の主役が姿を現した。


「随分楽しそうですね、お姉様方」

「こんにちは、皆さん」

「あら、主役のおでましね」

「お疲れ様です。リリアンヌお姉様、フェルクス公子」

「お疲れ様です」


 会場内で軽い挨拶回りを終えた二人は、疲労を見せることなく堂々とした姿だった。


「フェルクス公子、先ほどご両親とお話しをしまして」

「挨拶をさせていただきました」

「そうだったの? 何かへましてないかな」

「それどころか大活躍でしたよ」

「それは聞きたいな」


 自然な流れで、フェルクス公子に先ほどまでの夫人の頑張りを伝えるベアトリスとカルセイン、私とリリアンヌの図になった。


「本当にお綺麗です、お姉様」

「ありがとうレティシア。貴女もとても素敵よ。仕立てて貰ったのよね?」

「はい、レイノルト様から」

「ふふ。仲が良いようで何よりだわ。ところで……扇子は今日は卒業したの?」

「しっかりと持ってきてました。ただ、今日はお守りとして」

「なるほど。ふふ、本当によく成長したわねレティシア」

「お姉様方のおかげです」

「ふふ、それもあるわね」


 自慢げに隠し持った扇子を見せながら、リリアンヌとの談笑を楽しんだ。


「ちなみにお姉様、キャサリンお姉様の方へは」

「行ってきたわ。ほんの一瞬ね。タイミングを見計らって、あちらにはお祝いの言葉だけもらって離れたの」

「なるほど、さすがです」


 談笑を楽しめる時間も長くなく、二人は短時間で今度は大公と夫人の元へと向かった。二人の挨拶回りはこれが最後だった。


 


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