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117.披露会の幕開け



 披露会当日、フェルクス大公家は多くの招待客が訪れていた。王城に負けず劣らない作りの大公城には、国内主要の貴族たちが集結したと言っても過言ではない状況だった。


 それほどまでに、フェルクス大公子リカルドの婚約者及び今後に関しては、大きな注目を集めていると言える。


「…………凄い人ですね」

「緊張しているの、レティシア」


 馬車の窓から混み具合を観察しながら会話を進める。


「少しだけ。お姉様は……してなさそうですね」

「当然よ。侮られないように堂々としなくては。緊張は内側に留めておきなさい」

「はい」


 目の前に座るベアトリスから助言をもらいながら、緊張をできるだけ無くそうと奮闘していた。


「まぁでも、そのお守りがあれば大丈夫そうね」

「お守り……?」 

「全身に纏っているじゃない」

「!」


 その言葉がレイノルト様から用意して頂いたドレスを指すものだとわかると、少しだけ顔が赤くなった。


「そう、ですね。とても心強いです」

「それにしてもさすが帝国の大公ね。使っている素材やかけられているお金が違うわ」

「えっ……そんなに高いんですか、このドレス」

「まぁ……私でもあまり手を出さない程度には」

「それはどっちですか。仮面を外す前のお姉様ですか、それとも今のお姉様ですか」

「前者かしらね」

「ひえっ」


 思わず素で冷や汗が出てしまう。


(良いものだとは……良いものだとは思っていたけれど!!)


 何分、そんな高級なものを扱ったことがない。今まで安いもので済ませていた身としては、心が落ち着かなくなってしまう。


「ひえって……随分変な声が出たわね」

「お、お姉様。今日はもしかしたらキャサリンお姉様にの、飲み物をかけられるかもわかりません。き、着替えた方が」

「安心なさい、レティシア。そのドレスの一つ程度、リーンベルク大公からしたら痛くも痒くもない支出だから」

「…………そ、そうなんですね」


 恐るべし、レイノルト様。


 そう思ったのも一瞬で、帝国の大公ともあろう人ならば当たり前かと納得した。


「……飲み物をかけられる、なんてことは無いわよ。そんな品がないことを一度でもすれば、軍配が上がるのが早まるだけだもの」

「確かにそうですね」

「貴女もよレティシア。……もちろんそんなことはないと思うけど、念のため言っておくわ」


 ベアトリスの真剣な声色に深く頷く。


「良い? 今日の貴女は誇り高きエルノーチェ公爵家の令嬢よ。悪評がなんだは一切関係ないわ。キャサリンが作り上げた虚像なんて忘れなさい。だから胸を張って堂々とするのはもちろん、リリアンヌに負けないくらいの品格者でありなさい。できるわよね?」

「……やり遂げてみせます」

「その調子よ」


 リリアンヌほどの品格者はいないとわかってはいるが、尊敬する背中を越せるように努力することは重要なこと。それをわかっているベアトリスだからこその言葉だった。


「到着したわね。カルセインは一足先に着いているでしょうから、合流してリリアンヌを祝いに行きましょう」


 その言葉通り、馬車を下りた先にはカルセインが待機していた。


 分裂し対立している今、父とキャサリンは別行動で大公城に向かっている。顔を合わせることになるのは、間違いなく会場だろう。


 そう考えながら入城し、会場へと向かう。

 前を歩くベアトリスと、後ろに続く私とカルセイン。合流してすぐにカルセインは小声で私に尋ねた。


「身体は平気か、レティシア」

「至って健康ですわ。お兄様は」

「問題ない」

(良かった……)


 その言葉に安堵しながら、歩き続けた。


 昨日の出来事は、まだ鮮明に覚えている。幸いにも私達に怪我はなかったものの、私に植えついた恐怖の感覚はそう簡単には拭えない。それでも今だけは忘れて、負けないと言う強い気持ちに切り替えた。


 会場の手前付近になると、既に集まっている貴族達で賑わっていた。まだ開始時刻ではないものの、主役の登場を待つために早くから足を運ぶ人は少なくなかった。


「入るわよ」

「「はい」」


 ベアトリスの一言に頷くとすぐに、会場への扉が開かれた。主役の身内、というだけあって会場内の注目が集まる。


 ベアトリスのドレスは赤色基調のものだが、以前の派手派手しいものとは違い、落ち着いた色味とデザインの大人の女性を演出するものだった。

 

 カルセインは言わずもがな、顔が良いので登場だけで令嬢の視線を集める。そんな兄の礼装は、目立ちすぎないようなものを纏っている。


 その二人に負けず劣らず存在感を出せるのは、間違いなくレイノルト様が用意してくれたドレスのおかげだ。


 無表情な人形。


 その殻を完全に打ち破るように、小さく微笑みながら入場を果たした。


 悪評とは対極にいる人間であることを主張するように、柔らかい雰囲気を全身に纏いながら、最終準備を整えるのだった。


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