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113.商人との邂逅




 披露会の実施が発表された翌日、姉におつかいを頼まれた私は再びレイノルト様のお屋敷を訪れていた。

 

(こんなに短い期間で来るとは思わなかったけど……)


 今回はいつもと違い、突然の来訪となってしまった。内容は披露会の招待状を渡すこと。事前に大公子が挨拶もかねて顔を合わせたようだが、実施発表前もあり招待状はまだ渡せていなかったらしい。


(リリアンヌお姉様に頼まれたってベアトリスお姉様から預かったけど…………レイノルト様はいらっしゃるかな)


 不在の予感を感じながら門を叩く。


 前回とは違い、すぐに誰かが出てくる様子は当然ない。最悪の場合、お屋敷の誰かに渡せればそれで良いと思いながら待っていると、見覚えのある人が中から出てきた。


「どちら様……って、姫君! 驚いた……どうしたんだ?」

「あの。姉の披露会の件でおつかいを」

「もしかして招待状?」

「はい」

「なるほどね。悪い、今レイノルトは外に出てて。もうすぐ戻ると思うから、取り敢えず中に入ってもらって」

「あ、でも。渡すだけで」


 レイノルト様の不在に少し肩を落とすものの、取り敢えず任務は果たそうと思ってリトスに招待状を渡そうとする。


 待つのも正しいかわからず、帰ることを含めながら言うと、思いきり首をふられた。


「いやいや姫君。俺が姫君に会ったことをレイノルトに知られたら怒られる。冷たい視線を受けて、最悪口をきいてもらえなくなるからさ」

「ほんの一瞬ですよ?」

「ほんの一瞬でもだな」


 大袈裟な表現で引き止めをくらうが、どうやら本心も含まれている様子だった。


「だから中で待ってもらえると、俺としてはとてもありがたい。駄目かな」

「いえ。良く考えれば本人に渡すためのおつかいなので、むしろ待たせていただければと思います」

「もちろん。良かった、これでひと安心だな」

「そこまでですか?」

「そうだよ。俺にとっては死活問題。レイノルトの機嫌を損ねて良いことないからね」

「……なる、ほど?」


 わかるような、わからないような。

 二人の関係を感じながら反応をする。


「というか、姫君に言いたかったことがあったんだよ」

「なんですか?」


 突然のリトスの発言にきょとんとしながら返事をする。すると、彼はこちらにしっかりと体を向けて、ぴしっとした雰囲気で発言した。


「姫君、婚約おめでとう。というより、あいつをもらってくれて本当にありがとう」

「ありがとうございます。ですが、もらってくれたのはレイノルト様の方で」

「俺からしたら、何年も恋愛してこなかった訳あり物件をもらってくれた姫君に頭が上がらないんだよな」

「そんなことは…………そうですね、では私からもお礼をさせてください」


 小さく否定をしながらも、私もリトスにしか言えないことを言うことにした。


「姫君から?」

「はい。レイノルト様をセシティスタに連れてきてくださり、ありがとうございます」

「大袈裟だよ」

「ではこれでおあいこで」

「……ははっ、やるな姫君。俺が想像しているより、遥かに強かだ」

「強かになるよう、変わってきてる気がします」

「うん、いいな。……やっぱり君になら、レイノルトを任せられそうだよ。……ごめん、上からだったね」

「いえ。全力を尽くして頑張ります」

「ありがとう。……あ、でも。大変になったらさ、いつでも投げていいから。面倒になったらあいつのこと放置していいし」

「お、覚えておきます」


 軽率に頷くこともできず、さすがに笑ってごまかした。

 そういえば、ここまでリトスとしっかり話すのは初めてな気がする。

 振り返ってみれば、挨拶程度の会話しかしていないことに気がついた。


「……あ、そうでした。緑茶、姉と兄に飲ませたんです。そうしたら好評で」

「本当に? それは朗報だな……」


 やはり、貴族への布教は難航をしていたようだった。


「やはり色がセシティスタでは馴染みが無いものなので。あとは味、ですかね。苦すぎるのも難易度が高いかと」

「なるほど、確かにそうだなぁ。となれば甘いものの方が」

「はい。好む人は多いかと」

「ありがとう姫君。それじゃあ俺はここで」

「はい、ありがとうございました」

「いやいや、俺の方こそ……よし。そうと決まれば手配を────」


 情報を手にしたリトスは早速準備をしようと、来た方向に体を向けて戻ろうとした。


「……あ、これはまずい」

「?」


 ピタリと止まったことを不思議に思って振り返ると、そこには驚きの表情で静止したレイノルト様が立ち尽くしていた。


(…………まずいとは?)


 

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