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112.消えた余裕(キャサリン視点)


 全て上手く行っていると思っていた。

 何もかも思い通り。驚くくらいに。

 願うように、思うように事が運んでいる。その現実ににやけが止まらなかった。


 その筈なのに。


 何故今、こんなにも追い詰められているのか。

 余裕の感情は消え去り、にやけることなどできなくなってしまったこの状況は、一体何なのか。


 どうして。何故。いつから。


 疑問が頭を回りながら、父の書斎へと急ぐ。


(まさかお兄様を取り込むなんて……! 許せないわレティシアっ!!)


 悪評というレッテルが貼られたレティシアなど、正直気にもしていなかった。例え何度か噛みつかれようとも、今更貴族達がレティシアの言うこと等聞くはずがなかったから。彼らの中にあるレティシアはわがままで癇癪持ちというイメージは、そう簡単に拭えるものではない。


 姉達に関しても同じだ。

 どんなに悪評から遠ざかる姿を見せても、やはり人々の頭の中には悪評が思い浮かぶ。結局のところ、私には勝てないのだから。


 けど兄は違う。


 宰相補佐として勤め続け、成果も上げている彼の評判は社交界でもすこぶる良い。婚約の話も跡を断たない程の令嬢からの人気もある。極めつけは、同性からも尊敬されていることだ。私と同じく、面倒な姉妹を持った苦労人。そういう評価もされてきた。悪評からは無縁な人物。それを敵にだけは回したく無かったのに。


(一体どうやって取り込んだのよっ……)


 図書室の出来事を思い出す。


 レティシアのあの見下した視線が浮かんだ瞬間、再び怒りが込み上げてきた。


(レティシアの分際でっ……見てなさい。披露会には行かせないわ。貴女は一生この家から出なければ良いのよ)


 そう思い、根本の問題にも感情が込み上げてくる。


 誰があの婚約を予想できただろうか。


(お花畑のぶりっこな姉……引き立て役で終わってくれれば良かったものを)


 ギリッと思わず歯に力が入る。

 

 気づけば父の書斎へ到着していた。中から気配を感じ取ると、ノックをして部屋に入る。


「お父様、よろしいでしょうか……」

「……あぁ、キャサリンか。どうした?」


 どこか疲れた様子の父。その姿に何があったか聞きたくなるものの、優先事項から手をつける。


「その。ご報告がありまして」

「あぁ」

「レティシアが、その。また癇癪を」

「……またか」

「はい。……あの様子では披露会に出すべきではないと思うのです。せっかくのリリアンヌお姉様の披露会が……大切な場が、壊されてしまいますわ。エルノーチェ公爵家にも泥を塗りかねないかと思いまして……。謹慎させた方が良いかと思われます」


 いつものように、目を伏せながら告げる。悲しそうな雰囲気を醸し出しながら、同情を誘った後に真っ当な意見のように述べる。


「キャサリン、お前には苦労をかけるな」

「そんな……私はただ、家のことを思って」


 困ったような表情を浮かべる父。

 そこには優しさのこもった眼差しがある。


「いつまで経っても変わらない。全く……本当に厄介だな」

「はい……」


 はぁ。とため息をつく父。


 父は一度刷り込んでしまえば、中々考えを変えることはない。私にとって、とても好都合な思考。

 父の反応に落ち着きを取り戻してきたのもつかの間、予想外の言葉を投げられる。


「だが……今謹慎させる訳にもいかない。特に披露会はな」

「……理由をお聞きしても」

「リリアンヌが中心の会なのに、レティシアが出ないのはあまりにも不自然だ。理由もないのに貴族連中は勘繰りたがるだろう。こじつけで変な理由を付けられても後々面倒だからな……。披露会には出させる。不本意だが」

「そう……ですね」


 父の意見に同意する素振りを見せるも、内心はイラつきで溢れ返っていた。

 

(不本意?! そう思うなら謹慎させれば良いでしょ!! お父様のくせに使えないわね!)


 納得いかない結果にまた感情が乱れ始める。

 父と一言二言交わすと、その場を後にして自室へと戻った。部屋にいる侍女に暖かい飲み物と軽食をお願いして、一人部屋に佇む。


(……今のレティシアは厄介だわ。正直披露会に限らず社交界では一緒になるのを避けなくては。……なんで私がレティシアごときに気を張らないといけないのよっ)


 考えては思考と結果に満足できず、思わず舌打ちをしたくなる。


(正直……使い物にならないレティシアなど不要よ。邪魔でしかないわ…………………)


 親指を顔に近づけ、無意識に爪を噛む。


「…………あぁ、そうね。邪魔なら消せば良いんだわ」


 ようやく乱れた感情から抜け出し答えがでると、満足そうに笑みを浮かべた。


 その表情はもはや天使などと言えたものではなかった。




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