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105.茶葉を選んで




 遂に、王子妃が決定した。

 

 婚約を約束してから数日も経たない内に、情勢は動き出した。情報を耳にした日、ベアトリスの部屋に集合した。


「ようやく決まったのね」

「みたいです。ただ、満場一致の決定ではありませんでした」

「あら。もしかしてくす玉が効いたんですか?」


 リリアンヌの問いにカルセインは静かに頷いた。


「それと……あまり自分の口で言うものではないが、俺の言葉が一部の貴族には刺さったみたいだ」

「ふふ。私達悪評姉妹ならまだしも、まともだと評価されてるお兄様の行動では、嫌でもキャサリンを懸念しなくてはなりませんものね」

「毒は回ってたみたいね」


 三人が言葉を交わす中、本日は私がお茶の用意をしていた。というのも、あの日レイノルト様よりいただいた緑茶を飲んでもらう為に。


(口に合うと良いのだけど)


 会話に耳を傾けながら、内心不安を抱いて緑茶を淹れる。三人に渡すと、以前と同じようにリリアンヌの隣に座った。


「どうぞ。緑茶です」

「あら。緑茶ね」

「「緑茶……」」


 一度飲んだ経験のあるリリアンヌはともかく、恐らく初めて飲むであろうベアトリスとカルセインはじっと眺めながら呟いた。


「フィルナリア帝国の特産品か……夜会で見たことはあったが、飲む勇気はでなかったな」

「それなら今という機会に。是非」

「…………あぁ」


 普通に口をつけるリリアンヌに対して、慎重に香りを嗅ぎながら見極めるベアトリスと言葉を溢すカルセイン。


 少しだけ躊躇いながら、二人も口をつけた。

 

「……あら。美味しい」

「……本当ですね。もっと、その。苦いと思ったのですが」

(やった!)


 二人の反応に内心ガッツポーズをする。


 レイノルト様に返事をしたあの日、実は緑茶の吟味を行っていたのだ。


◆◆◆


「レイノルト様、緑茶の茶葉を頂くことは可能ですか?」

「もちろんですよ」


 事の始まりは、最近の貿易に関する進み具合の話題からだった。


 順調ではあるものの、セシティスタ国内での緑茶の普及は中々難しいとのことだった。夜会やパーティーで置いても、緑色の飲み物は珍しさもあって手を出しにくいのが現状。


 リトスさんも頭を悩ませながら試行錯誤して交渉してるのだとか。


 思えば自分の姉と兄も緑茶を飲んでいなさそうだなという話から、まずは身近な人にも飲んでみてもらおうということになったのである。


 当たり前の事だが、とても大切なことだとレイノルト様は力強く頷いてくれた。


「以前頂いた茶葉は苦味が強かったと思うのですが、苦味の少ない茶葉はあったりしますか」

「ありますよ」

「甘味の強いものとかは」

「もちろん。お詳しいですね」


 そう嬉しそうに笑うレイノルト様とは対照的に、ドキリと体が反応する。


 緑茶とは縁遠いセシティスタ王国。普通に考えたら、そこに生まれ育った私が詳しいのはおかしなこと。冷や汗が垂れ始める。


「……セ、セシティスタ国では紅茶が主流なので……苦いものより甘いものの方が、入り口としては良いのではと思いまして」

「確かに。仰る通りですね」


 動揺しながら悟られないように、必死に理由付けをした。

 なるほど、顎に手を添えて頷く。


「レティシア、少し待っていて下さい。何種類か茶葉を取ってきますね」

「は、はい。お願いします」


 小さく頭を下げると、レイノルト様は颯爽と部屋を後にした。その瞬間、ソファーに崩れ落ちる。


「はぁーーーっ」

(あ、焦ったーー!!)


 危うくボロが出る所だった。


 自分に前世の記憶があること。

 これは誰にも言ってない秘密。言うことに抵抗があるわけではないが、無駄な混乱を招く必要はない。


(でも、いっそのこと言った方が良かったのかな……)


 そう思いが過るものの、すぐに考え直す。


(……ううん。話す場合は、もう少し信頼関係をよりきちんと築いてからにしよう)


 それか墓場まで持って行こう。と決めると、レイノルト様を待つのであった。


◆◆◆


 改めて思い出すと、危なかったなと感じる。飲み終えたベアトリスから、より具体的な感想をもらった。


「とても美味しいわね。紅茶とは全く違う味わいで、上品なお味だわ」

「……見た目からは想像がつかない味ですね」

「えぇ。面白いわ」


 笑みを溢す二人に安心しながら、本意を告げた。


「フィルナリア帝国の特産品関係の貿易の一つとして、この緑茶が含まれています。どうにかセシティスタ国でも普及を図りたいのですが、見た目の珍しさから難航していて」

「そうなのね」


 頷くベアトリスの隣では、カルセインが疑問符を頭上に浮かべていた。


「平民の方よりも、貴族への普及が特に難しいようで。もしよろしければお姉様方、お兄様も周囲に勧めてみてください」

「わかったわ」

「もちろんよ」


 笑顔で了承する姉達とは別に、カルセインの疑問符が増えていく。


「……わかったが、どうしてレティシアがその手伝いをする必要があるんだ?」

「あら。お伝えしませんでしたっけ? レティシアはリーンベルク大公に嫁ぐんですよ、お兄様」


 停止する兄と、意味深な笑みを浮かべるリリアンヌ。


 その瞬間、部屋の空気が静止したのだった。


 


 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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