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104.告白の返事を




 あれから一週間後。


 慰労会から時間が経った今、私は再びお屋敷の門の前に立っていた。


(ここに来るのも二度目……)


 以前とは違う感情になりながら、足を踏み出す。


 答えが決まってからというもの、何度か姉達と話を重ねた。


 貴女も貴族。頷くという答えは婚約という形になることはわかってるわね。と感情外の重要事項を確認してくれたベアトリス。


 人間だから、気持ちが冷めたり熱くなったりすることはもちろんある。答えを変えたくもなるかもしれない。だからよく考えて。自分がどうしたいか、素直に。そう気持ちに寄り添ってくれたリリアンヌ。


 二人の姉に背中を押され続けた一週間を越え、屋敷の扉へとたどり着いた。


(前回は動揺し過ぎて、ここを通ったのかも覚えてないや)


 小さく自分に笑うと、訪問のベルを鳴らした。


(大丈夫。落ち着けてる)


 胸にそっと手を置きながら、中から人が出てくるのを待った。


 ガチャリ。


 待ち時間は数分にも満たぬまま、扉は開いた。中から現れた人物の息切れが、少しだけ聞こえた気がした。

 

「…………ようこそ、レティシア嬢」

「ごきげんよう、レイノルト様。本日の訪問を許可していただきありがとうございます」

「私の方こそ。足を運んでくださりありがとうございます」


 どこかぎこちない笑顔をお互いに交わす。気にしないように気持ちを整えて来た筈なのに、いざ目の前にすると上手くいかない。


「どうぞ」

「失礼します」


 屋敷内に入ると、先日慰労会を行った部屋に通された。特に会話を交わすことなく椅子に座る。いただいた飲み物を少しだけ飲むと、沈黙が重くなる前に口を開いた。


「……私はかなり恋愛に疎く鈍感です」

「…………」


 目線を下げていたレイノルト様が、ゆっくりとこちらを向いた。


「ここ数日、たくさん考えて悩みました。……それでも、レイノルト様と同じ好きという気持ちにはたどり着けませんでした」

「…………そう、ですか」


 声色が少しだけ沈んだ気がした。

 小刻みに小さく手が震えているのがわかる。その震えは私にまで伝わって、指先が小さく動いた。胸がちくりとしながらも、淡々と話を続けた。


「私達はお互いに貴族同士ですよね。レイノルト様の言葉に頷くことには大きな意味があると思っています。……それは同じ考えで間違いありませんか?」

「…………はい」


 もしも自分の思い違いで、そこまでの未来を含まれてなかったら。という懸念をなくしてから、本心を伝えた。瞳を真剣に見つめて。


「私はレイノルト様と同じ様な気持ちはないかもしれません。……ですが、自分をこれ以上ないほど見続けてくれる、背中を押して支え続けてくれる貴方と……私はこれから先、共に歩みたいです」


 悲しげな色をしていた瞳は、一気に色づく。ただ思考の処理が追い付かないのか、言葉は出ないままだ。手の震えは止まり、顔に赤みが帯びていく。


 珍しく動揺を隠せずに、言葉に詰まるレイノルト様。良好な反応に思わず自分も笑みがこぼれる。そしてそのまま、私が言葉を続けた。顔を赤らめながら。


「レイノルト様。私と婚約してくださいますか?」

「────っ!」


 レイノルト様にとっては、予想もつかなかった言葉だろう。更に思考の処理が難しくなっていく。


(少し意地悪だったかな)


 顔の体温が上がるのを感じながら、ほんの少しだけ反省をした。


 お互いの熱が引くのを確認すると、再び視線を合わせる。すると、レイノルト様は立ち上がり、目の前に座りながら片膝をついた。


「……どうかこれから先もずっと。私の隣にいてください。婚約しましょう、レティシア」


 優しく手を取りながら、最上級の笑みを添えて見上げられる。抜けきれない熱を残した頬には、喜びが映っていた。


「はい。よろしくお願いします、レイノルト様」


 同じくらい最上級の笑みを、と思いながら笑顔を向けた。


「…………抱き締めてもいいですか?」

「は、はい」

「失礼します」


 一瞬戸惑いながらも頷くと、隣に座り直したレイノルト様によって包み込まれた。ゆっくりと離れると、会話を始めた。


「……これからは名前で呼びますね」

「わかりました」

「……レティシアに、好きといってもらえるよう頑張ります」

「好きですよ。ただ、レイノルト様に追い付けてなくて」

「……待ってください。今のは不意打ちでは」

「そうですか?」

「はぁ……レティシア、貴女は可愛いすぎます。婚約だって自分から言うつもりでしたのに」

「驚かれました?」

「とても。自分から言えなかった悔しさはありましたが、それよりもレティシアの口から告げられたことの喜びの方が格段に大きかったです」

「ふふふ。緊張しました」

「私もです」


 そう微笑み合う光景は、外から見れば甘い空気なのだろう。

 

 こうして告白の一件は無事収束するのだった。


 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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