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第九十七夜 志摩八重子


 へどろと化した鬼は、正殿地下の心御柱しんのみはしらを目指して這い進んでいる。


 新井穂波あらい ほなみに気付かれねば、そのまま邪魔されることなく取り憑いたことでしょう。穂波から松野頼清まつの よりきよに語られた話を受け、地下で待つのは立花兄妹と加藤佳乃で御座います。


 十七年前の敵討かたきうち。


 自分のモノガタリの結末は自分でつけてこそでありましょう。私にはもはやその機会も無いわけですが。


 人知れず、地の底で生じるはらいを眺めるは、志摩亮子の祖母である志摩八重子しま やえこです。水鏡に映った様子を語っていただきたく。



……ああ、空気が張り詰めているよ。


 何をしている、亮子。こちらへきて水鏡を見ないか。いつかは、おまえにも術を教えてやらねばならないのだから。


 なんだって? 怖いから見たくないと言うのか。あきれた娘だ。神宮の舞女まいひめになるなら、美しさだけでなく、みにくさにも目を向けなさい。見たくないものを見る、見えないものを見る、見てはならぬものを見てこその巫女みこだろう。


 よしよし、いい子だ。婆ちゃんも一緒に居てやるからね。ほれ、来たよ。この国のへそたる柱に取り憑こうとやってきたあの姿を見るがいい。膿爛相のうらんそうから散相さんそうに至ろうとする御遺体のようではないか。


 立花浩一の術も効かぬ。むろん、加藤佳乃の並外れた膂力りょりょくでどうなるでもない。立花久美に託された力で身を護ってはいるが、そういつまでも持ちはしないだろう。佳乃と浩二と、はらいの矢を放ったようだが、形を失った鬼に刺さろうはずもない。


 これ、亮子。落ち着きなさい。


 いいんだよ。いまは待っているのさ。滅するのではない救う手立てを。矢ではらわれて散り散りになった鬼の体が少しずつ寄り集まって戻っていくね。間に合えばいいが。


 む、水鏡が揺れているのか。危ういことだ。そこから離れなさい。気をつけないと、ほれ、ぶくぶくと沸きたってきたよ。鬼は見られることを嫌うからね。


 湯柱が竜のように吹き上がり、すっかりからになってしまった。この先は、あの子たちが無事に戻ってくることを祈るしかあるまい。



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