表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/100

第六十五夜 稲田陽子


 食べることは文明です。


 いえ、さすがに言葉が足りませんね。生物進化の目的を逆算すると、それは熱量の効率的な消費なのです。我々は命、即ち熱量を取り込んでいるでしょう?


 捕食する方が効率的だという指向性、他者から奪い、熱量を効率よく消費することが生物進化の究極の目的だとすれば、発電もしかり、戦争も然り、様々な形で溜め込まれた熱量を使いやすく転換してしまう文明はその行き着く先の必然に違いない。


 捕食と文明はよく似ている、というのは飛躍し過ぎでしょうか。私にはどうもそうとばかりは思えないのですが。


 さて、鬼の骨を喰らい、化け犬となったクロですが、別の犬に追われてどこかへ逃げ去りました。クロがどこへ行ってしまったのか、それと知らずに伝えにきた稲田陽子いなだ ようこの話です。


 先に語ってくれた稲田誠いなだ まことの妻にして、神尾美琴かみお みことの母、不思議の力を持つ御仁ごじんより。昔からの知り合い、高島夫婦に何事か伝えることがあって学び舎を訪ねてきたようです。



……妙な胸騒ぎがするのよ。


 夫が発掘調査を申請していた陵墓りょうぼが五つとも荒らされてしまったの。盗掘とうくつというのとは少し違うみたい。


 いずれも、十七年前に発掘した陵墓と同じ系列の鬼塚でね。名前もわからないけれど、被葬者の四肢ししと胴を、ばらばらに埋めて封じたとか。将門塚まさかどづかのようなものかしら。強力な反逆者の力を恐れて、首を斬り、手足を斬り、黄泉よみがえることのないようにしようという。人を殺す際に、非力な者ほど反撃を恐れて滅多突めったづきにする心理に似ているのかもしれないわね。残虐さは恐怖と弱さの裏返しなのだから。


 最初の鬼塚発掘から今回の許可を得るまで、とても時間がかかった。だから、ようやく、本当にようやく発掘がかなうと思った矢先やさきの話だったのよ。


 なぜ盗掘じゃないと言えるのか?


 破られた入口の奥に、獣の足跡があったから。むしろ、獣の足跡しか無かったの。それも一匹じゃない。二匹の獣が相争あいあらそったような様子だったわ。

 それが一箇所だけなら、いのししでも野良犬でも、なにか獣が入り込んだだけだと思ったかもしれない。けれど、そうじゃなかった。四つの陵墓すべてが荒らされていた。陵墓の奥、足元はもちろん、壁面へきめんにも天井にも無数の獣の足跡がついていたの。


 最後のひとつについては、どちらか、あるいは両方のものかもしれない。おびただしい量の血が飛び散っていた。


 人知れず良くないことが起きているような、そんな不吉な予感がするの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ