表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/100

第六十三夜 中山早苗


 皮袋の惨劇へと近付いて参りました。


 鬼塚より抜け出せしものは、鬼の腕で御座います。形代かたしろたる腕自体は稲田誠いなだ まことに捕まったわけですが、無念と悔いと呪いの産物は市中へ放たれてしまった。


 鬼塚の所在を忘れ、由来を忘れ、祭祀さいしを忘れた人々が悪いわけでもなく、石の扉を開けた稲田誠が悪いわけでもない。


 むろん、化物退治に挑んだ若者らが悪いわけでもないのです。さはさりながら、後悔とともに語るのは中山早苗なかやま さなえで御座います。



……うちのせいや。


 温州蜜柑うんしゅうみかんはクマの人形ごとばらばらにされてしもた。佳乃も式札を引き裂かれて消えてしもた。たまたま居合わせた兄妹も殺された。


 始まりは、うちの思いつきやった。手のひらサイズの式神、愛らしい女の子の姿をした佳乃と暮らすようになって、世の中にはあやかしによる事件が意外と多いことを知ったんや。


 まだ学生時分のふわふわした感覚で生きておったから、その危うさも考えず、佳乃と一緒に人にあだなすあやかしを退治して回るようになった。


 心水教しんすいきょうの連中と知り合ったのもその頃のことや。若い女性が失踪し、斬り殺される事件が頻発しとったんやけど、あやかしによるものとみて調べとったうちらに手を引けと警告や。いま思うと素直に聞いておけば良かった。温州蜜柑を巻き込み、佳乃を失うこともなかったろうに。


 せやけど、それまでのあやかし退治で調子に乗っとったんやろな。どうとでもなると思ってしもた。まさか、千年前の鬼やったなんて。いまの世に残るかすみたいなあやかしとは違う気合いの入った本物や。


 その頃はうちも若い娘でな。鬼を追うどころか、逆に狙われることになってしもた。


 馬鹿でかい鬼の腕がうちをさらいに来たんよ。温州蜜柑うんしゅうみかん佳乃よしのも、なんとかはらおうとしてくれたけど、まったく手に負えず。あげく、居合いあわせた立花兄妹にも申し訳ないことになってしもた。悔やんでも悔やみきれへん。すべてがうちのせいやないことはわかっとる。せやけど……。


 この世には神も仏もないものか。あるのは、ただ人と鬼だけなんやろか。だとしたら、うちらはどこへ向かえばええんやろ。


 うちを助けようとして、佳乃は鬼の爪で式札しきふだを引き裂かれて消えてしもた。それを見て逆上した温州蜜柑が鬼を無理やり丸飲みにして、腹ん中で暴れるのをほとんど消し去ったんやけど、最後には、破裂してバラバラになってしもた。佳乃の仇を討ったんや。相討ちでな。


 残されたんは、ぼろぼろの皮袋だけ。それも高島承之助が持っていってしもた。どこへ持っていったんやろ。あんなもん、どうするつもりなんやろ。生き返らせることなんか、できやせぇへんのに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ