表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/100

第四十三夜 猫柳理奈


 まつくろけの猫が二疋にひき


 なやましいよるの家根やねのうへで、


 ぴんとたてた尻尾しっぽのさきから、


 糸のやうなみかづきがかすんでゐる。


 『おわあ、こんばんは』


 『おわあ、こんばんは』


 『おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ』


 『おわああ、ここの家の主人は病気です』



 萩原朔太郎はぎわら さくたろうの詩集「月に吠える」より。私が一番好きな詩です。なんとも言えない寂しさと不幸と優しさを感じます。


 一般にペットとして飼われる猫の先祖は十万年以上前にさかのぼり、砂漠のリビアヤマネコが元であるそうです。農業が盛んになり、穀物をねずみから守る必要が出てきた。そのために人に飼われるようになったと聞きます。漢字でも獣偏になえと書きますね。


 ことほど左様に穀物と関わりのある獣であって、果ては穀物の精霊、大地の恵みの象徴とされたことがこの小さな獣の不幸でもありました。猫焼きやら猫投げやら、散々なもの。


 時と場所と人によって、猫は不運を招くとされたり、幸運を招くとされたり。日本でも年経た猫は化けると言われながら、一方で福招きともされるわけです。


 おや、失礼。余計なことをペラペラと。さて、猫と云えば、短く伸ばした黒髪と白い肌が印象的なこの女性、今宵こよいの語り手は猫柳理奈ねこやなぎ りなで御座います。



……んはぁ、猫、猫、猫でいっぱい。


 おかげ横丁のあちこちに招き猫が飾られてる。オーソドックスな焼き物から、キーホルダー、ぬいぐるみまで。来て良かったぁ。夫の将吾と黒猫のジジと一緒に、ちょっと遠いけど無理して遊びにきた甲斐かいがあるってものだよ。


 ジジも珍しく離れて行っちゃった。いっぱいの猫に興奮してるのかもしれないなあ。


 もうおじいちゃん猫だけど、しっかりしてるから心配ない。そうそう、私よりしっかりしてるから。って、将吾! もう、馬鹿にしてるでしょ? あはは、怒ってないよ。だって、こんなにたくさんの可愛い猫ちゃんに囲まれてるんだから。ほら、学生さんたちもデート中かな。


 中学生くらいの男の子と女の子。元気そうな女の子に振り回されてる感じだね。それから、あの子たちは高校生くらいかな。着物デートなんて素敵じゃない。あれ、あの青地に稲妻柄いなづまがらの着物は、あれは佳乃よしのが好きだった柄じゃないかしら。ちょっと気になるわ。


 ええ、方向も同じだし、少しついていってみましょう。って、どうしたのかしら。着物の女の子、急に走り出して。は、早い! こんな人混みを、なんの邪魔もないみたいに。


 ほら、将吾、追っかけてよ。なんでって、気になるじゃない。それだけ。ほらほら、早く。私? 私はむり。だって走るの嫌いだもん。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ