表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/100

第三十九夜 加藤寿史


 の世で何がわからぬといって、自分というもの以上にわからぬものがありましょうか。人は常に生まれ変わっていると言われ、それは代謝によるのか、あるいは目に見えぬ心や記憶によるのか。


 一貫して自分と信じるなにかは、本当にそこにあるのでしょうか。虎と化した李徴りちょうを思うまでもなく、かつてり、かつて思った私は常に流れの向こうにある。


 不死となった女性、ヘンリエッタ・ラックスの魂はどこへ行ってしまったのか。果たして誰にわかるでしょう。


 さあ、変わってしまった息子夫婦に戸惑い、加藤寿史かとう ひさしが知り合いの刑事さんに相談しています。



……名坂くん、聞いてくれるか。


 きみは刑事として様々な事案を扱ってきたろう。その中には、どう言えばいいだろう、なんというか少し変わったもの。そう、常識では測りがたいこともなかったかな。


 少しはあったと言うんだね。


 では、老いぼれの戯言たわごとと思わず、聞いてやってほしい。息子夫婦のことだ。恥ずかしい話だが、いつからか折り合いが悪くなって、ここ五年ほどは音信不通でね。やっと住んでいる場所がわかったものの、夫婦ともにまるで別人のようになっていたんだ。


 姿も声も確かにゆう理緒りおさんなのだが、それでも違うのだ。あれは何か別のものだ。もしかしたら、人ではないのかもしれない。化け猫に取って代わられでもしたかと思うような。


 むろん人は変わるものだ。もしかしたら自分でも知らぬに、毛嫌いされるようなことを仕出しでかしていたのかもしれない。息子も良い歳だし、たとえ親子でも、自ら縁を切ろうならそれも仕方のない話だ。


 ただ、孫の佳乃のことが心配でな。ちょうど十六歳になったころと思う。


 近所の方に聞いても、住んでいるのは息子夫婦だけだという。こちらをけ老人扱いだよ。近所付き合いにも問題はないようで、おかしいのは自分の方かと心配にもなった。


 一人で行っても、また門前払もんぜんばらいだ。息子夫婦の家まで一緒に来てくれないか。きみが佳乃の無事を確認してくれればそれでいい。


 ああ、来てくれるのか。ありがたいよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ