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第三十二夜 志摩亮子


 さて、今宵は弓矢の話です。


 いまでこそ日常の場から姿を消しましたが、ほんの数百年前までは、食をるため、また敵をたおすために長く使われてきた道具ですね。


 だからこそ、邪をはらう力があるともされております。弓矢に取って代わった鉄砲には、あまりそうした力はない。むしろ化け物の不死性を表すために無力さを強調されるような気もします。鳴弦めいげん蟇目ひきめなどを持ち出すまでもない。いまでも神社に行けば、破魔矢はまやがあって当たり前なのですから。


 鏑矢かぶらやによる音だけでなく、弓自体が琴の起源になったとも伝えられています。


 古い物語では言葉遊びにち、悲しい結末を導いてしまっておりますが、さて、先々ではどうなりますことか。伊勢の学び舎にある小さな弓道場での話です。語るは高等部三年生、弓道部の部長、志摩亮子しま りょうこです。



……どうしよう。


 できれば関わりたくなかった人が来てしまった。学び舎の奥、四季の部屋を過ぎ、鬼門に向かって矢を射込むように作られた小さな弓道場は、わたしの憩いの場だったのに。


 この学校は変だ。いや、変なのは知ってるんだけど、生徒も変な子が多い。あと半年ほどでやっと無事に卒業できるよ。とほほだよ。もっと都会のお洒落しゃれな高校へ行きたかったのにさ。ばあちゃんにだまされた。

 そりゃあ、悪いのは自分だよ。真面目に勉強してても成績わるくって、どこも通らなかったんだよぉ。ああ、こんなことなら血反吐ちへどを吐くまで勉強しとけばよかった。


 受験に失敗してどんよりしてるところへ、ばあちゃんの知り合いがやってる学校があるけど行ってみるかいなんて言われたら断れないし。


 来てみたら、普通の人には見えない学校なんだって言われてさ。冗談かと思ったら本当だった。すぐ逃げ出そうとしたけど、橋姫とかって妖怪みたいなのもいたりして連れ戻されちゃうんだもん。それに、ばあちゃんも怖いし。


 昔、梓巫女あずさみこをやってたんだって。ようわからんけど。巫女になんてならないって散々いってきたのにさ。


 使うのは梓弓あずさゆみじゃないけど、弓に触れて慣れておくように言われて、勝手に弓道部に入れられたし。もともと生徒数自体も少なくて、今年の弓道部はわたしだけになっちゃった。だから部長なの。ほかにも一人だけの部活も多いし、下手すると廃部のまま部屋だけが残っているところもあるけどね。


 でも、なんで今ごろになって新入部員?


 校長先生が来て、この子らを入れてやってくれって頼まれたのが、立花浩二くんと久美くみちゃんの兄妹、それに加藤佳乃さんだ。


 生徒数の少なさから、初等部、中等部、高等部の垣根かきねはあってないようなものだから、久美ちゃんがいるのは別にいいんだけど。変人ぞろいの生徒の中でも、とびきりの変人が佳乃さんで、なんていうか、ちょっと獣っぽい。猫耳少女とかケモガールとかでなく、なんだろ、オレサマオマエマルカジリ的な?


 うん。自分でも、なに言ってるかわからないね。とにかく、ちょっと怖いの。でも、わたしも最上級生なんだからしっかりしないと。ん? そうだ、最上級生なんだっけ。よし、引退しよう。部長を佳乃さんに譲って引退したらいいんだ。そうだ、そうしよう。


 え、なに、佳乃さん? 弓に触りたいの?


 仕方ない。後輩への最後の優しさだ。教えてあげよう。あ、いいのいいの、こっちの話。って、ちょっと待って。弓の上下が逆だよぉ。ダメだって、無理やり引いたら折れちゃうから。ちょ、ちょっと、立花くん、見てないでやめさせてよう。ひえっ! ゆ、弓が折れたし。


 佳乃さん? 折れたぁ、って不思議そうにしてるけど、わたし止めたよね。ごめんなさい、って、あら意外と素直。教えてって? センパイ、センパイってそんな。ああ、もう仕方ない。教えてあげるよぉ。


 って、ちょっと待てい! 立花くん、きみまで何してんの。無理やり引いたらダメって言ったよね。上下もちゃんと確認して! うう、二人とも心配だなぁ。久美ちゃんが一番できてるよ。


 というようなことで、愛着ある道具と道場が心配で、そのまま部長を続けるはめになりました。で、何日かして三人も慣れてきたころ、それが起きたんです。


 弓矢を構えてる佳乃さんに、立花くんが手を被せるようにしてたの。イチャついてるのかと思ってうらやましく、じゃなくて、ふざけないように注意したら、高島先生に二人でやってみろって言われたんだって。


 なんのこっちゃと思ってたら、つがえられていた矢が青白く炎を発して、えっ、と思っているうちに放たれたそれが、まとどころか安土あづちも壁も吹き飛ばしてしまった。


 あわわわ、と頭が真っ白になってるわたしとは対照的に、佳乃さんはなぜか得意げな顔でした。開いた唇からのぞ八重歯やえばが吸血鬼のコスプレみたいで愛らしい。その表情も、ほめてほめてという子供みたいで可愛かったけど、やっぱりこの学校は変です。早く卒業したい(涙



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