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第三十一夜 立花久子


 三郎と九郎と、二人は血の繋がりはないものの兄妹のような間柄なのでしょうか。白里様が教祖を務める心水教の信徒であり、共同生活を営む一種の家族と思えます。


 それをいびつなものと切って捨てるのは容易なことですが、果たして貴方の思う家族が唯一正しいものであるかどうか。


 家族のりようは、社会や文化、と言ってしまうのが粗すぎれば、建物ひとつにも違いが出てくるのです。洞窟であるか、天幕であるか、車両であるか、屋敷であるか、あばらであるか、部屋があるかないか、広いか狭いか、そんなことで在りようは変わってしまう。子供部屋などというものができたのはいつのことか。


 婚姻の形ひとつとっても様々です。同じ家に暮らし、ともに過ごすことが当たり前ではない。あるいは死者との婚姻さえ有り得る。不用意に赤い封筒を拾うことのなきように。ふふ、冥婚めいこんを望むならそれも良いでしょうが。


 かつての私は家というものを知りませんでした。ただ闇と壁と姉のみがあった。婚姻を知り、家を知り、家族を知ったのは、ようやくにして明治のころで御座います。


 鬼の娘と呼ばれた加藤佳乃にも家族があったわけですし、またここにも一つの家族があります。今宵の語り手は、浩一、浩二、久美ら兄妹の母親である立花久子たちばな ひさこです。



……帰ってきてくれてお母さんは嬉しい。


 十七年前の出来事があってから、余程よほどのことがなければ実家に寄ることもなくなってしまったもの。一生懸命、浩一がなにをしているのか、よくはわからないけど、こうして帰ってきてくれるのが何より嬉しい。


 それにしても、なにがあったのかしら。


 浩一の笑顔を見たのは本当に久しぶりだわ。浩二と久美が死んでしまって、それ以来ね。いまは言えないが、近々良い知らせを伝えられるだろうだなんて。


 ようやく身を固めてくれる気になったのかしら。よい人が見つかったなら、それほど嬉しいこともないもの。十七年前のことさえなければ、きっと御船の御嬢さんと結ばれていたでしょうに。あの人も結婚して子供を産んで、生きていればもう……。

 一度だけ伊勢へ来たときに顔を見せてくれたことがあったわね。長女の龍樹ちゃん、可愛かったわ。もう、高校生か大学生くらいになってるはずよね。


 あの人は下の子が産まれた時に亡くなってしまったと聞いたけれど、その時も浩一は涙ひとつ流さなかった。


 龍樹ちゃんも下の子も、元気にしてるのかしら。ちょうど浩二と久美が死んだのと同じくらいの年ね、きっと。


 だめね、いつまで経っても。


 さあ、いまは久しぶりに顔を見せてくれた浩一のために美味しいものを作ってあげなきゃ。


 浩一、浩一、夜は何が食べたい? あら、何よ。いるなら早く返事なさい。どうしたの、難しい顔して破魔矢はまやなんて眺めて。これだ! って、まあ、びっくりするじゃないの。ちょ、ちょっと、どこへ行くのよ。利政さんに会ってくるって? 晩ご飯は? あ、帰ってから食べるのね。なんでもいいからって。ああ、行っちゃったわ。もう、それが一番困るのよね。


 じゃあ、手っ取り早く、ソーメンと唐揚げにしましょ。あの子たちも好きだったし。



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