第二十六夜 神尾あやめ
人と人でないものの違いとは何か、貴方ならわかりますね。そう、たとえ化け物であっても、人に化け、人として生きるならば、それは人なのです。
かつて神々であり、妖怪であり、お化けであった者たちは、ひとつ目であったり、一本足であったり、逆に多くの目や手を持つなど、わかりやすいものでした。鬼と人を区別する最も有名なものは角ですね。
しかし、こうした区別は、本来あいまいなものだったのですよ。人は鬼に、鬼は人に、たやすくその境界を乗り越える。
ですから、温州蜜柑もまた、人から鬼に、鬼から人になって構わないでしょう。もし、そう願うのであれば。
さて、では続いて、愛らしい幼な子の目から見た世界を語ってもらうとします。大人には見えぬものが見えている神尾あやめです。
……おにがいたの。
おとうさんは、ちゃんと聞いてくれなかったわ。子どもだと思って、失礼しちゃう。あたし、見たんだもの。きれいなお姉さんのあたまに、つのが生えてたの。
でも、こわくなんてなかったわ。だって、あたしは、もう、一人で寝ることだってできるんだから。それに、お姉さんは優しい犬か猫みたいな目をしてたのよ。だから平気。
おかあさんほどじゃないけど、きれいなお姉さんだった。また会いたいな。
こわかったのは、電車が出発するときに見えたおばけのほう。つのはなかったから、おにじゃないとおもうの。じゃあ、なんなのって聞かれてもわかんないけど。
なんか変なもやもやした黒いやつが浮かんでたんだ。そこから手が生えていて包丁を持ってるように見えたよ。それがお姉さんの方に近づこうとしてた。でも、あぶないとは思わなかったかな。だって、おばけより、おにのほうが強いにきまってるもん。
おかあさんも、おとうさんも、なにも見えなかったって言ってたけど、目がわるいんじゃないかなぁ。
だって、ほかにも見えてる人がいたもの。お姉さんを見てびっくりしてたから。つのとおばけが見えたんだよ、きっと。
大きくなっても目がわるくならないといいな。めがねなんてかけたくないし、おばけやおにが見えなかったら、逃げられないもの。