第二十夜 隠れ斎王
静かな場所だからか、大穴に風が吹き込む音が響きますね。貴方にも聞こえますか。気の生じる根の国の風音が。
ふふ、この風はどこへ向かうのでしょう。落ちて落ちて落ちた先でまた明るい場所へ吹き出すのかもしれません。温州蜜柑の皮袋は、もう一度、神水で洗い、この風に晒しておきます。
穢れを祓い、良き道を示しますように。十七年先の生口は、隠れ斎王より。
……だれかみているな。
あなのおくから、しせんをかんじる。いせのかくれち、おおいわのおくだ。われをみるものはおらぬはず。だれじゃ、だれじゃ。
かぜのふきだすあなは、どこへつながっておるのだ。われはここをでることはない。とりのようなみにくいかおなのだ。だが、このつとめにより、すくわれるものもあろう。
なほるとしょうし、やすみとしょうし、しおたれとしょうし、あせとしょうし、なづとしょうし、くさひらとしょうし、つちくれとしょうす。けがれをはらい、つえとしてつかえる。
のう、うずめ、うずめよ。
きこえておるか。おおいわをしめておくれ。あさのひかりがまぶしい。いや、まて。かすかに、においがする。くさったどぶがわのようなにおいだ。よくないものがでたな。
鬼か。
ほんのじゅうすうねんまえ、なんにんも、ぎせいがでたときく。うずめ、われはここをうごけぬ。こういちを、たちばなこういちをよべ。あやつのことだ、ちかくまできておるだろう。さがして、つれてまいれ。
なに、うれしそうだと。ばかをいえ。あやつは、われのじゅつをぬすんだ。ぬすっとよ。だが、ほかにてがなければ、しかたなかろう。
なんじゃ、やくめをおえたら、こういちといっしょになればよいというのか。くく、ばかなことを。われのすがたをみて、それでなおうけいれられるものか。
げんに、こういちもにげたではないか。ざれごとはよい。あやつは、われにかりがあるのだ。それに鬼のはなしであれば、よろこんできくであろう。さあ、よんでまいれ。