第十八夜 桂太一
一番はじめは一の宮
二また日光中禅寺
三また佐倉の惣五郎
四はまた信濃の善光寺
おや、来ていたなら声をかけていただければよろしいものを。古い御手玉があったのを思い出しまして、少しばかりの手慰み。
さあ、続けましょう。穢れのない小豆を一粒、また一粒、希望を込めてそれぞれの皮袋に入れていくとします。西欧の話にあるパンドラの箱のように、わずか一粒の希望などとは申しません。いくらでも入れて差しあげます。
希望は持つだけなら無料ですからね。さて、今回の語り手は希望をもっておられるかどうか。御船家の使用人、桂太一です。
……旦那さんの短気にも困ったもんですな。
ゲホーバコ、ゲホーバコ、言うて。探してこい言うても、どんなもんかも知らんがな。御船家秘蔵の品で、虫干しの時でさえ外へ出さへんのに。見たこともないもんを探してこいて、そりゃ無茶やわ。
とにかく禍々しい箱や、瘴気を吹き出しとるですぐわかるなんて言われても、一介の使用人に見つけられると思とんのかいな。
まあええわ。たまには遠出も悪うない。使用人総出であちこち探しに出て、もし、見つかるとしても誰か一人や。
占いでは神社のあたりいうことらしいけど、日本にどれだけの神社があると思とるんやろ。まず見つからんわ。汗水たらして、クソ真面目に探し回ることもない。
一生懸命探した振りして観光しとこ。そのために、お伊勢さんを担当させてもろたんや。ゲホーバコとやら、この辺には無いとええな。変なことに巻き込まれとぉない。
お、なんやおかげ横丁では土産物だけやのうて、いろんなもんを売っとるんやな。ほう、骨董屋か。ええな、こんなところも探したけど無かったって報告しとこ。
はぁ、えらい別嬪さんが店番してはるわ。色白で外人さんみたいな、って、ほんまに外人さんや。えらい背の低い小柄な人やけど、薄いブロンドの髪と碧い目がきれいや。
まあ、一応きいとこか。無いと思うけど、この店にゲホーバコってあるやろか。けったいな箱らしいんやけどな。あっても、無いって言うてもろたらええんやけど。