第十七夜 大田さかえ
さあ、素敵なファスナーが付きました。
ちゃんと二つ作りましたからね。ここへ小豆を入れれば綺麗な御手玉の出来上がりです。ふふ、もちろん冗談です。まあ御手玉に使えないこともないでしょうが。
温州蜜柑の皮を繕って繋いで、立花兄妹それぞれの二人分にわけたのです。溜め込まれていた業と徳と、男女にわけました。
どのような形になるかは兎も角、これで二人を救うことが出来るかもしれません。まだあと八十三夜ですか。気が遠くなってきますね。ですが、めげずに喚びましょう。御船龍樹の同級生にして片面的な親友、大田さかえです。
……あれぇ?
わわ、あんなところに龍樹ちゃんだぁ。なにしてんだろ。へへ、びっくりさせちゃろ。薬屋のゾウさんに隠れて、ちょっとずつ近付いて。っと、なんか落ちてきた?
ひぃ! スズメの死体じゃん。
って、よく見たら、あちこちに落ちてる。なにこれ、なにこれ。ヒッチコックの鳥だっけ、あの変な映画みたい。
龍樹ちゃん、意外と繊細だから大丈夫かな。おーい、龍樹ちゃーん。って、ぐはっ、またなんか落ちてきた。うう、あたまと首がいたいよ。いったい何が。ぎゃっ、カラスの死骸じゃん。龍樹ちゃん、助けて!
うう、怖かったよう。
ちょ、ちょっと、なんでふりほどくのさ。親友が助けを求めてるんでしょ。あたたかく抱きしめてやってよう。ってか、その箱なに? ちょっと気持ち悪いんだけど、なになに、なにが入ってるの?
いったーい。たたかないでよう。なんで見せてくれないの。
え? 危ないから触るなって。んもー、龍樹ちゃんてば、優しいなぁ。箱から、なんか変なの出てるよ。瘴気っていうんでしょ。そりゃ知ってるって。これでも呪術師の端くれなんだから。わわっ、落ちたカラスが動いてるよ。死んだカラスが踊り出す、ってね。
え? それで良いって?
いやぁ、良いことないと思うなぁ。それ、祓わなきゃだめだよ。えーと、たしかこう。
天清浄、地清浄、内外清浄、六根清浄と祓いたまう。天清浄とは……
……小男鹿の八つの御耳を振り立てて聞こしめせと申す。
うん、これでだいじょうぶかも。え、なんで驚いてるの。よう覚えられたなって? 龍樹ちゃん、あたしのことバカだと思ってるでしょ。せやな、って、ひどい。ばかじゃないもん。そりゃ数学、というか算数もできないけど、でも、でも、なんか龍樹ちゃんが変だなぁ、いつもと違うなぁってことはわかったよ。その箱のせいじゃないのぉ? 気をつけてほしいなぁ。
えぇー、ふだんと変わらへんって?
そうかなぁ。龍樹ちゃんは危なっかしいから。なーに? あんたに心配されちゃおしまいって、そんなこと言わないでぇ。ねぇ、ちょっと、置いてかないでよぉ。